裁量労働制について

使用者側から、「裁量労働制をとっているので、残業代は発生しない」という主張がなされることもあります。
しかし、そのような説明を鵜呑みにしてはいけません。

⑴ 裁量労働制は「みなし労働時間」制度の一つ

裁量労働制とは、「みなし労働時間制」の一つです。

そもそも、労働基準法は、1日あたり、1週間あたりの労働時間に上限を設けたり、法律で決められた上限を超える労働時間について残業代(割増賃金)の支払いを義務づけるなどして、長時間労働を抑制しようとしています。
そして、本来、これらの規制の対象となる「労働時間」とは、実際に働いた時間(実労働時間)のことです。

ところが、労働基準法は、1987年以降の改正によって、実際の労働時間がどうであったかとは関係なく、あらかじめ定められた一定の「みなし時間」を実労働時間とすることを認める制度(みなし労働時間制)を許容するようになりました。
たとえば、みなし時間が「1日8時間」とする「みなし労働時間制」の場合、その適用を受ける労働者が1日10時間働いたとしても、逆に1日5時間しか働かなかったとしても、その日の実労働時間は8時間とみなされる、というものです。

この制度のもとでは、実際に1日10時間働いたとしても、その日の実労働時間は「8時間」とみなされるわけですから、法定の労働時間の上限(1日8時間)を超えず、時間外労働に対する割増賃金(残業代)も発生しないことになります。(逆に、1日5時間しか働かなかったとしても、使用者は8時間分の給料を支払わなければなりません。)

現行法上、みなし労働時間制として認められているのは次の3つです。

事業場外労働についてのみなし労働時間制(労基法38条の2)
専門職裁量労働についてのみなし労働時間制(労基法38条の3)
企画職裁量労働についてのみなし労働時間制(労基法38条の4)

ここでは、裁量労働制(②と③)についてご説明します。

⑵ 「裁量労働制だから残業代は発生しない」???

裁量労働制は、もともと、「業務の性質上、仕事のやり方を大幅に労働者に委ねる必要がある場合」に、実際に働いた時間(実労働時間)とは関係なく、あらかじめ労使協定などで決定された時間だけ労働したものとみなされる制度のことです。
当初、1987年に専門的業務(研究職など)に限って導入されていましたが(専門業務型裁量労働制)、1998年に「企画業務型裁量労働制」が追加して導入され、適用範囲が広げられました。

この制度のもとでは、たとえばあらかじめ労使協定などで「1日8時間働いたものとみなす」と決定されていた場合、労働者が仮に1日10時間働いたとしても、割増賃金(2時間分)は請求することができません。 しかし、「裁量労働制だから残業代は発生しない」という使用者の説明を、鵜呑みにすることは禁物です。

「裁量労働制」でも、深夜労働・休日労働についての割増賃金は請求できる

裁量労働制をとる場合でも、週1日の休日は保障しなければならないとされているので、休日労働(労働基準法36条)については割増賃金を請求することができます。

さらに、労働が深夜(午後10時~午前5時)に及んだ場合には、深夜割増賃金(労働基準法37条)についても請求することができます。休日労働・深夜労働の時間数は「みなし時間」ではなく、実際の労働時間で算定されます。

<裁量労働制が適用される場合の時間外労働・休日労働・深夜労働の考え方>
時間外労働 あらかじめ労使協定などでさだめた「みなし労働時間」を基準として、時間外労働(残業)の有無を判断する。
(例) みなし労働時間が8時間→時間外労働は「ゼロ」
みなし労働時間が9時間→時間外労働は1時間
休日労働 実際に休日労働をした場合には、休日労働に対する割増賃金が発生
深夜労働 実際に深夜(午後10時~午前5時)に労働した場合、深夜労働に対する割増賃金が発生

「裁量労働制」が適法に導入されていないケースも多い

そもそも、裁量労働制の導入には、下に書くように厳しい要件が課せられています。
そして、実際には、これらの要件をきちんとクリアできていないケースも多く見られます。

要件をクリアできていないケースでは、そもそも「みなし労働時間」の効果は発生せず、実際の時間外労働時間にしたがって計算された残業代を請求できることになります。

⑶ 専門業務型裁量労働制が有効と認められるための要件

<専門業務型裁量労働制(労基法38条の3)の3要件>

①対象業務が法で定められたものであること。 対象業務が「業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要」があり、「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難」なものとして、厚生労働省令で定められた「対象業務」に該当すること(※)
②右の6つの事項につき、事業場ごとに労使協定を締結すること。 1号 対象業務
2号 みなし労働時間
3号 業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、労働者に具体的な指示をしないこととすること
4号 健康福祉確保措置
5号 苦情処理措置
6号 1~5号のほか、厚生労働省令で定める事項(労使協定の有効期間、健康福祉確保措置、苦情処理措置に関する記録を有効期間満了後3年間保存すること)
③専門業務型裁量労働制による旨の就業規則または労働協約の定めがあること
※ 対象業務一覧
(1) 新商品・新技術の研究開発、人文・自然科学に関する研究の業務
(2) 情報処理システムの分析・設計の業務
(3) 新聞・出版の記事の取材・編集、放送番組の制作のための取材・編集の業務
(4) 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5) 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6) コピーライターの業務
(7) システムコンサルタントの業務
(8) インテリアコーディネーターの業務
(9) ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10) 証券アナリストの業務
(11) 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12) 大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13) 公認会計士の業務
(14) 弁護士の業務
(15) 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16) 不動産鑑定士の業務
(17) 弁理士の業務
(18) 税理士の業務
(19) 中小企業診断士の業務

なお、「システムエンジニア」など、形式的には対象業務に該当するような名前がつけられているケースでも、実態として業務の裁量性が少なく、対象業務以外の業務にも相当従事しているような場合には、「対象業務に該当しない」と判断される場合もあります。

⑷ 企画業務型裁量労働制が有効と認められるための要件

企画業務型裁量労働制が有効と認められるためには、次の表に記載された要件を満たすことが必要です。

<企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)の6要件>

① 対象業務(1項1号) 事業運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務
業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があること
遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務
②対象労働者(1項2号) 対象業務を適切に遂行するための知識・経験等を有する労働者
③対象労働者の個別同意(1項6号)
④労使委員会の設置(2項各号) 労使委員会の委員の半分が、過半数労働組合ないし過半数労働者の代表の指名を得ている者であること(1号)
議事録の作成・保存、労働者への周知(2号)
運営に関する規程の制定(3号)
⑤労使委員会の5分の4以上の多数による決議と届出(1項) 決議事項(1項各号) 対象業務(1号)
対象労働者の範囲(2号)
1日のみなし労働時間(3号)
健康福祉確保措置(4号)
苦情処理措置(5号)
労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止(6号)
労使決議の有効期間、健康福祉確保措置、苦情処理措置に関する記録を有効期間満了後3年間保存すること
労使決議を所轄の労基所長に届け出ること(1項柱書)
⑥企画業務型裁量労働制による旨の就業規則又は労働協約の定め

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