在宅勤務手当とは
コロナ禍で「在宅勤務」が広がって以降、在宅勤務する労働者に使用者が「在宅勤務手当」を支払うというケースが多くなっているようです。
このような「在宅勤務手当」は、割増賃金の算定の基礎となる賃金(基礎賃金)に含まれるのでしょうか?
「除外賃金」には該当しない
まず、割増賃金の基礎となる賃金に含まれないもの(除外賃金)として、労基法37条5項・労働基準法施行規則21条によって以下のものが列挙されています。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
在宅勤務手当の実態は企業によって異なると思われますが、「在宅勤務したこと」が支給要件ということであれば、一般的には、上記に挙げた除外賃金に該当することはないと考えられます。
したがって、在宅勤務手当も「賃金」(労基法11条)にあたるのであれば、基礎賃金に含まれるということになります。
「実費弁償」か、それとも「賃金」か
いっぽうで、(これは在宅勤務手当に限りませんが)使用者が労働者に支払う金銭の中でも、「実費弁償」として支払われる金銭については、そもそも「賃金」ではないため、当然ながら「基礎賃金」にも算入されません。
例えば、作業用品代・出張旅費・交通費など、「業務遂行に必要な費用」を労働者が立て替え、使用者がその実費を弁償するために労働者に支払う金銭は、労働者の労務提供に対する対価ではないため、そもそも「賃金」(労基法11条※)に該当しないと考えられているのです。
※労基法11条「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」
そこで、「在宅勤務手当」についても、「実費弁償」としての性質を持つ場合には、「賃金ではない」といえる場合があり得ることになります。
「在宅勤務手当」が実費弁償となるのはどのような場合か
では、「在宅勤務手当」が実費弁償としての性質を持つと言えるのは、どのような場合なのでしょうか。
この点、厚生労働省労働基準局長「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて」(令和6年4月5日基発6号)では、次のような考え方が示されています。
【実費弁償の考え方】
・在宅勤務手当が、事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるためには、当該在宅勤務手当は、労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額を特定し、当該金額を精算するものであることが外形上明らかである必要がある。
・このため、就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示される必要があり、かつ、当該計算方法は在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法である必要がある。
・例えば、従業員が在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その金銭を企業に返還する必要がないもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5000円を渡し切りで支給するもの)等は、実費弁償に該当しない。
【実費弁償の計算方法】
・実費弁償に当たりうるものとしては、事務用品等の購入費用、通信費(電話料金、インターネット接続に係る通信料)、電気料金、レンタルオフィスの利用料金などが考えられるところ、これらが事業経営のために必要な実費を弁償するものとして支給されていると整理されるために必要な「在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」としては、以下の方法などが考えられる。
(1)国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」で示されている計算方法
(2)(1)の一部を簡略化した計算方法
(3)実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法
この行政解釈の内容を前提とすると、これまで多くの会社で支払われている「在宅勤務手当」については、ほとんどのケースで「基礎賃金」に含まれることになるのではないか、というのが私の率直な感想です。
まとめ
・在宅勤務手当は、通常、基礎賃金から除外されるものとされている賃金(除外賃金)には該当しない。
・在宅勤務手当が「実費弁償」に該当する場合には基礎賃金には含まれない。ただし、「実費弁償」に該当すると言えるためには行政解釈の示す「合理的・客観的な計算方法」により金額が決定されている必要がある。
・結局、実際には、ほとんどの「在宅勤務手当」は基礎賃金に含まれることになるのではないか。