執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
賃金の支払期日は労働者と雇い主との合意で決まる
残業代など「賃金」の支払期日をいつにするかは、労働者と雇い主との間の合意(労働契約)によって決まります。
「毎月15日締め、当月25日払い」の会社であれば、2023年4月16日~5月15日の就労に対する賃金(給料)の支払期日は、2023年5月25日になります。
雇い主は、労働者を雇い入れる際に、賃金の「締め日」と「支払日」を書面の交付(※)によって明示しなければなりません(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条)。
※ただし、労働者が希望した場合にはFAXや電子メールなどでも可。
したがって、雇い主が労働基準法を守っていれば、「労働条件通知書」「労働契約書」などのタイトルがつけられた書面に「締め日」「支払日」が記載されているはずです。
遅延損害金の利率は退職前と退職後で異なる
残業代など賃金についても、本来支払われるべき日(支払期日)に支払われない場合には、法律上「遅延損害金」が発生します。
そして賃金の場合、遅延損害金の利率は、労働者が退職しているか否かで異なります。
労働者が退職していない場合の遅延損害金の利率
労働者がまだ退職していない(在職している)場合、遅延損害金は、「本来の支払期日の翌日」から「実際に支払われる日」までの日数に、民法で定められた法定利率(年3%)を乗じた金額となります。
なお、令和2年4月の改正民法施行により、法定利率は一定期間ごとに変動することになりました。令和8年4月1日以降は、年3%ではなくなる可能性があります。より詳しく知りたい方は、法務省のホームページをご覧ください。
労働者がすでに退職している場合の遅延損害金の利率
労働者がすでに退職している場合には、退職日の翌日以降、年14.6%の遅延損害金が発生します。(「賃金の支払いの確保等に関する法律」第6条)。
ただし、支払期日が退職日よりもあとに来る賃金(通常は、退職直前の1ヶ月~2ヶ月分の賃金のみ。)には、「支払期日の翌日」から年14.6%の遅延損害金が発生します。
具体例
たとえば、「毎月15日締め、当月25日払い」の会社で、2023年5月31日に退職した場合、最後の2か月分の賃金に対する遅延損害金がどうなるかを見てみましょう。
前提として、最後の2か月分の賃金の支払期日を確認しますと、次の通りです。
①4月16日~5月15日の就労に対する賃金の支払期日は、5月25日
②5月16日~5月31日の就労に対する賃金の支払期日は、6月25日
①の未払賃金については、退職日(5月31日)までの遅延損害金は年3%で計算し、退職日の翌日(6月1日)以降の遅延損害金は、年14.6%として計算します。
いっぽう、②の未払賃金については、退職日よりもあとに支払期日が来るため、支払期日の翌日(6月26日)以降、年14.6%の遅延損害金が発生します。
(2023年6月11日改訂)
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。