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よくあるご質問

Q給与の中に出来高給(歩合給)が含まれている場合、残業代はどのように計算されますか?

執筆者 弁護士 友弘克幸

西宮原法律事務所

 

出来高給とは?

出来高給(できだかきゅう)とは、仕事の「出来高」つまり成果に対して支払われる賃金のことです。

実際によく目にするのは次のようなものです。

・契約件数や契約高に応じて定められる営業社員の歩合給(ぶあいきゅう)

・売上額の一定割合と定められたタクシー運転手の歩合給

 

出来高給の場合の残業代の計算

最もよくあるのは、「定額の固定給+歩合給」というパターンですので、そのような場合を想定して、実際の残業代の計算方法を見てみましょう。

 

【設定例】

月給制で、雇用契約上、毎月の給与は

「固定給20万円+新規契約獲得1件あたり1万円」と定められているとします。

月平均所定労働時間数は 170時間とします。

なお、以下の「残業」とは全て、労働基準法の上限(1日8時間、週40時間)を超えた「法外残業」のことを意味するものとします。

 

(1)まったく残業しなかったが、新規契約を5件獲得した月の場合。

この場合、固定給20万円+1万円×5件=25万円 の給料を受け取れることは当然ですが、

「まったく残業はしなかった」ので、別途「残業代」が発生することはありません。

 

(2)10時間残業したが、新規契約の獲得がゼロだった月の場合。

こんどは逆に、残業したけれども新規契約に結びつかなかった場合はどうでしょうか。

賃金単価の計算       固定給200,000円÷170時間=1176円

残業代(割増賃金)の計算  1176円×10時間×1.25=14,700円

ということで、固定給20万円のほかに、残業代1万4700円を受け取れることになります。

 

(3)10時間残業して、新規契約の獲得が5件だった月の場合。

この場合は「固定給」部分と「歩合給」部分に分けて、残業代を計算します。

まず、固定給部分は、(2)とまったく同じです。

賃金単価の計算       固定給200,000円÷170時間=1176円

残業代(割増賃金)の計算  1176円×10時間×1.25=14,700円

 

次に歩合給部分。ここが要注意です。

まず、歩合給部分の賃金単価の計算では、「月平均所定労働時間」ではなく、「その月の総労働時間」で割ります。契約上の労働時間(所定労働時間)ではなく、その月に「実際に働いた」時間で割って賃金単価を求めるのがポイントです。

仮にこの月の総労働時間が180時間だったのであれば、次のようになります

賃金単価の計算  歩合給50,000円÷180時間=277円

そして、これに「残業時間」と「割増率」をかけるのですが、割増率は「1.25」ではなく「0.25」になります

残業代(割増賃金)の計算 277円×10時間×0.25=692円

したがって、残業代の合計額は、14,700円+692円=15,392円 になります。

この月は、固定給20万円+歩合給5万円のほかに、残業代15,392円を受け取れるわけです。

 

出来高給にあたるか否かが争われた裁判例

引越運送事業A社事件(東京地裁立川支部令和5年8月9日判決・労経速2536号3頁)

引越運送業務に従事していた労働者(現業職)に支給されていた賃金のうち、業績給A=売上給(売上額に応じて支給される賃金)、業績給A=件数給(作業件数と車格に応じて支給される賃金)、業績給B(作業内容ごとにポイント表に基づいて支給される賃金)、愛車手当(車両の洗車やワックスがけを行った場合に支給される賃金)、無事故手当(無事故に関する所定の条件を満たした場合に支給される賃金)は、いずれも「出来高払制その他請負制によって定められた賃金」に該当しないと判断された。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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