執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)
【大阪弁護士会所属。「残業代請求専門サイト」を運営しています。】
残業代の計算の出発点は「1時間あたりの単価」の計算
給料の支払い方には、①時間給(時給制)、②日給制、③週休制、④月給制、⑤年俸制があります。(このほかに、⑥歩合給などの「出来高払制」もあります。)
①~⑤に関しては、残業代(割増賃金)の計算方法の出発点は同じで、まず「1時間あたりの単価」(賃金単価)を計算する、という作業をする必要があります。
①時間給(時給制)の場合は、時給がそのまま賃金単価になるので、通常、悩む必要はありません(労働基準法施行規則19条1項1号)。
(最低賃金を下回っていない限り、)契約で合意された「時給」が、そのまま残業代計算のときの時間単価になるわけです。
日給制の場合は「日給÷1日の所定労働時間」で計算するのが原則
日給制の場合、日給額を1日の所定労働時間で割って賃金単価を計算するのが原則です。
たとえば、日給が12000円で、1日の所定労働時間が6時間なのであれば、
12000円÷6時間=2000円
となります。
所定労働時間数が法定労働時間数を超える場合は要注意
ただし、所定労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合には、注意が必要です。
たとえば、日給12000円で、所定労働時間が「10時間」と合意されているような場合です。
労基法32条2項では、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と定めていますので、「1日の所定労働時間が10時間」という契約は、労基法に反することになります。
契約内容が労基法に違反する場合、(たとえ労働者が同意していたとしても)労基法に反する部分は無効となり、契約内容は労基法に反しない形に修正されることになります(労基法13条)。
したがって、上記の例であれば、所定労働時間が、労基法によって「8時間」に修正されるわけです。
このため、このような場合には、賃金単価の計算にあたっても、所定労働時間数で割るのではなく、法定労働時間数で割るのが正解ということになります(佐々木宗啓ほか編著「類型別 労働関係訴訟の実務・改訂版Ⅰ」128頁)。
12000円÷10時間=1200円 ・・・間違った計算方法
12000円÷8時間=1500円 ・・・正しい計算方法
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。