執筆者 弁護士 友弘克幸(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
不当解雇についてもご相談ください
労働事件の中で、残業代請求とならんで紛争が多いのが、不当解雇の問題です。
西宮原法律事務所では、不当解雇についても事務所開設以来10年以上にわたり、多数の解決実績があります。
不当解雇のご相談も「無料」でお受けしていますので、お気軽にご相談ください。
どのような場合に不当解雇となるのか?
「解雇」とは、使用者が、その一方的な意思表示によって雇用契約(労働契約)を解約することを言います。
解雇は、使用者がいつでも自由に行えるというものではありません。
解雇が「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」と認められない場合は、解雇は「無効」となります(労働契約法第16条)。
「客観的に合理的な理由」というのは抽象的な言い方ですが、平たく言えば、第三者(要するに裁判所)の目から見ても、「なるほど、そういう理由であれば雇用契約を一方的に終了させることとしても、やむを得ないな」と納得できるような理由、ということになります。
「社会通念上相当」というのもまた抽象的なのですが、形式的にみればいちおう「客観的に合理的な理由」がある場合であっても、具体的な事情に照らすと、やはり解雇は行き過ぎではないか、といったような場合に、「社会通念上相当でない」として解雇が無効と判断される場合があるという意味です。
一般に「不当解雇」とは、そのような「合理的な理由」がないにも関わらず行われた解雇、あるいは、「社会通念上相当ではない」事情があるにもかかわらず行われた解雇のことを指して使われています。
不当解雇されたときの戦い方
上で書いたように、労働契約法16条により無効とされるような解雇、すなわち不当解雇は「無効」になります。
解雇が無効になるということの法律的な意味は、
使用者が「解雇によって雇用契約は終了した」と主張しても、そのような主張は通らない
ということです。
要するに、法律的には「雇用契約は終了していない」ことになるわけです。
したがって、不当解雇によって職場から追い出され、賃金の支給をストップされた労働者としては、
(1)使用者に「雇用が継続している」ことを認めさせ、職場復帰を求める
(2)解雇後も解雇前と同じように賃金(給料)を支払え、と要求する
というのがオーソドックスな戦い方ということになります。
実際には解決金の支払いで解決することがほとんど
とはいえ、現実には、明らかな不当解雇のケースであっても、労働者が実際に職場復帰するというケースはほとんどありません。
不当解雇された労働者としては会社に対して不信感を持っているケースが多いですし、特にワンマン社長がすべてを取り決めているような小規模な会社であれば、仮に一時的に職場復帰しても、また時間がたてば嫌がらせなどを受けるのではないか、という心配をせざるをえない場合もあるからです。
会社としても、いったん紛争になった以上、なかなか労働者をすんなりと戻す気持ちにはなれないという場合が多いでしょう。
したがって、明らかな不当解雇のケースであっても、ほとんどのケースは、
① 会社が「解決金」などの名目で金銭を支払う
② 労働者は雇用の終了を受け入れる
という形で紛争が解決されているのが実情です。
なお、解決金の金額については後述します。
不当解雇を争う方法・手続き
不当解雇を争う方法としては、
① 交渉(話し合い)
② 労働審判(ろうどうしんぱん)・・・裁判所の手続き
③ 裁判(訴訟)・・・裁判所の手続き
というのが主な方法になります。
通常は、まずは、①交渉による解決をこころみ、交渉による解決が難しそうであれば、②労働審判か、または③裁判 を起こすことになります。
なお、事案によっては「仮処分」という裁判所の手続きを利用することもありますが、数としてはあまり多くはありません。
解決までに要する期間
解決までの期間は、上記①~③のどの方法により解決するかで異なります。
①交渉で解決する場合
法律上は、特に「交渉」の期間に制限はないのですが、筆者としては、交渉での解決を目指すなら、3ヶ月か、長くてもせいぜい6ヶ月程度が一つの目安だろうと考えています。
というのは、3~6ヶ月も話し合いをして、それでも解決に至らないような場合には、双方ともに「どうしても譲れない点」があるわけで、それ以上時間をかけて話し合いをしても、折り合える可能性は低いと思われるからです。
そのような場合には、交渉はいったん打ち切って、労働審判や裁判など別の手続きをとることを考えるべきでしょう。
②労働審判
労働審判を裁判所に申し立てる場合、申し立てから解決までの期間は3~6ヶ月程度が多いです。
労働審判では原則として「調停」(話し合い)による解決を目指します。
調停の成立が難しい場合には、労働審判委員会(裁判官+2名の労働審判員)が、「労働審判」を出すことになります。
労働審判は、裁判所で開かれる「期日」が原則3回まで(例外として4回まで)と決められているため、裁判に比べて迅速な解決が図れることが多い手続きです。
なお、特別な事情がない限り、労働審判の期日には、依頼者ご本人にも毎回ご出席いただく必要があります(※)。
※ときおり、「労働審判の期日には、スーツを着てゆかなければなりませんか?」というご質問を受けることがありますが、労働審判期日での「服装」については、それほど神経質になられる必要はありません。「Tシャツ・短パン」のようなあまりにラフな服装はさすがに避けた方が良いとは思いますが、常識的な服装であれば、スーツでなくても問題ありません。
③裁判(訴訟)
最近は、不当解雇の場合の争い方としては②の労働審判を選ぶケースが多いのですが、事案によっては、労働審判でなく裁判(訴訟)を選ぶ場合もあります。
また、労働審判を申し立てた場合でも、労働審判で紛争が解決できなかった場合(労働審判に対して、当事者のいずれかが異議を申し立てた場合)などは、裁判(訴訟)に移行することになります。
裁判の場合は、労働審判とは異なり、期日の回数に制限はありません。
このため、解決までの期間はどうしても長期化することが多くなります。
もちろんケースバイケースではありますが、一般的には、裁判が始まってから解決するまで、1年~2年程度はかかると考えておく必要があります。
なお、不当解雇に関する裁判(訴訟)の一般的な流れ(地方裁判所で行われる第一審の流れ)は、おおむね次のようになります。
原告(労働者) 訴状を提出
↓
被告(雇い主) 答弁書を提出
↓
その後、1ヶ月~1ヶ月半おきに裁判所の期日が開かれ、原告・被告の双方が、自分の主張をまとめた「準備書面」を提出したり、証拠となる書類(労働契約書、就業規則などなど)を提出します。
↓
双方の主張が出そろったら、裁判官が法廷で関係者(証人・当事者)の証言・供述を聞くための「尋問」を行います。
↓
裁判官が双方の主張と証拠、尋問の内容を検討して「判決書」を書き、それに基づいて判決を言い渡します。
※以上の手続きの流れの中で、紛争解決のため、双方の合意によって裁判を終了させる「和解」が成立することも多くあります。
不当解雇に対する解決金の金額は?
インターネットを見ていると、「不当解雇の解決金の相場は月給の〇カ月分~〇カ月分」などと書かれている記事を目にすることがあります。
しかし、一口に不当解雇といっても、誰が見ても明らかな不当解雇から、不当解雇と言えるかやや微妙な事案まで、様々なものがあります。
また、実際の解決金の金額は、①在職中に受け取っていた賃金(給与)の金額、②勤続期間の長短、③解雇されてから解決するまでの期間の長さなど様々な事情を踏まえて調整されているという側面もあります。
さらには、不当解雇だけでなくパワハラがある場合にはその慰謝料、残業代の未払がある場合にはその金額など、不当解雇以外の事情も考慮されることがあります。
このため、いちがいに「〇カ月分~〇カ月分」と言うことは困難なのです。
とはいえ、一つのデータとして、独立行政法人労働政策研究研修機構(JILPT)という機関が、雇用終了に関する紛争について、労働審判・和解の実情を調査した報告書が公表されていますので、ここではその紹介をしたいと思います。
2023年4月25日にJILPTが公表した「労働審判及び裁判上の和解における雇用終了事案の比較分析」によれば、2020年(令和2年)と2021年(令和3年)に、ある地方裁判所において調停または審判で終局した労働審判事案(785件)と、同裁判所において和解で終局した労働関係民事訴訟事案(282件)を調査した結果として、以下のようなデータが示されています。
労働審判の解決金 平均値 285万2637円 、中央値150万円
民事訴訟の解決金 平均値 613万4219円 、中央値300万円
ただし、全体の分布をみると、解決金額は低いものでは10万円未満、高いものでは5000万円以上のものまであります。
結局は、やはり事案ごとのばらつきが大きいと言わざるを得ないわけです。
不当解雇はどこに相談すべき?
結論から言えば、不当解雇された場合には、弁護士に相談されるのが一番良いと思います。
上でも述べたように、「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」と認められない場合は、解雇は「無効」となりますが(労働契約法第16条)、どのような理由があれば「客観的に合理的な理由」があるといえるのか、どのような場合に「社会通念上相当」なのか、といったことについては、条文には何も書かれていません。
不当解雇については、過去に膨大な数の裁判が起こされており、裁判所の判断が示されています。
ひとくちに不当解雇といっても、世の中にまったく同じ事件はありません。
個々のケースで「不当解雇」といえるかどうかを判断するためには、過去の類似の事例で裁判所がどのように判断してきたのかを踏まえて判断する必要があります。
そのような判断をもっとも適切にすることができるのは、なんと言っても弁護士が一番です。
特に、過去に不当解雇の労働審判・裁判を数多く手がけてきた経験のある弁護士ほど、「裁判官はこのようなケースでは、このような見方をする」ということを実体験として分かっていますから、労働審判・裁判でどのように判断される可能性が高いのか、見通しを立てやすいということがいえます。
不当解雇は労基署に相談できる?
労基署(労働基準監督署)は、本来、「労働基準法」違反などを取り締まる機関です。
不当解雇か否か、すなわち「解雇が労働契約法16条に照らして有効か無効か」という問題は、「労働基準法」違反などとは別の問題です。
したがって、少なくとも労基署の本来の役割からすれば、「不当解雇」の問題は、労基署の「守備範囲」外の問題といえます。
また、労基署に相談すると、「解雇予告手当(労基法20条)」を請求するようアドバイスされることがあります。
しかし、いったん自分から解雇予告手当を請求してしまうと、それは解雇を有効なものとして受け入れたと評価されるリスクが生じます。
そのような重大なリスクもあるため、弁護士としては、不当解雇だと感じた場合には、労基署ではなくまず弁護士に相談していただくほうが良いと考えています。
不当解雇を争うのに「時効」はある?
時効(正確には「消滅時効」)とは、時間の経過によって法的な権利が消滅してしまうことです。
たとえば、賃金を請求する権利については、本来支払われるべきときに支払われないまま3年が経過すると、時効により消滅します。(ちなみに、2020年3月以前は「2年」とされていました)。
実は、「不当解雇を争うこと」そのものには、現在の法制度上は、明確な時間的な制限は設けられていません(※後注)。
ただし、不当解雇だとして争うのであれば、解雇されたあと、できるだけ時間をおかず、すみやかに会社に対して「不当解雇を撤回せよ」と抗議したり、裁判・労働審判を起こすなど、何らかのアクションを起こすほうがよいでしょう。
というのは、解雇されたあと、何もしないで長期間が経過してしまったあとでは、いざ「不当解雇である」と主張してみても、裁判所から「それだけ長い間、何もアクションを起こさなかったのは、解雇を有効なものとして受け入れたからでしょう?」と見られてしまうリスクが高くなってしまうからです。
したがって、「不当解雇ではないか?」と思ったら、できるだけ早く弁護士にご相談いただくことをおすすめしたいと思います。
※注 なお、解雇後の賃金については、3年の時効があります(労働基準法115条、附則143条3項)。また、不当解雇に対する争い方としてはややイレギュラーな争い方ではありますが、「不当解雇そのものが不法行為(民法709条)に当たる」と主張して損害賠償請求を行う場合には、3年の時効があります(民法724条1号)。
不当解雇と弁護士費用
不当解雇されたと思うので弁護士に相談したいが、弁護士費用が心配・・・という方は多いと思います。
弁護士費用には、通常、①法律相談料、②着手金、③成功報酬、④実費という3種類があります。
法律相談料
法律相談料は、その名前のとおり「相談」するための費用で、1時間1万円程度というところが多いかと思います。
事務所によっては、5000円というところもありますし、条件によっては無料としているところもあります。
いずれにせよ、相談したからといって必ず依頼しなければならないというわけではありません。
複数の弁護士に相談してみて、一番良さそうだと思うところに依頼する、というのも一つの方法です。
着手金
着手金は、正式に事件(交渉、労働審判、裁判など)として依頼し、代理人として動いてもらう際に、最初に支払う費用です。
こちらも事務所によって異なりますが、たとえば不当解雇を争って労働審判を申立てるような場合であれば、10万円~30万円にしているところが多いかなと思います。
なお、着手金はいったん支払った後は、最終的な事件の結果(成果)にかかわらず、返金されないのが原則です。(ただし、事件が解決する前に途中で弁護士が辞任・解任で終了した場合には、それまでの仕事内容に応じて一部返金される場合もあります。)
成功報酬
成功報酬は、依頼した事件が終了するときに、事件の結果(成果)に応じて支払う報酬のことです。
完全に負けてしまって何も得られなかった、という場合には通常は成功報酬は発生しません。
一定の成果(復職ができた場合や、退職を受け入れる代わりに解決金を得た場合)には、その成果の内容に応じて成功報酬が発生する、というのが一般的なパターンです。
以上に述べた「着手金+成功報酬」方式のほかに、弁護士が費やした時間に応じて、「1時間につき⚪円」といった形で報酬が発生する「時間制報酬」(タイムチャージ)という方式をとる場合もありますが、不当解雇の事件の場合は、あまり一般的ではないように思います。
実費
以上に述べた①~③は、弁護士がその「業務の対価」としていただく報酬の説明でした。
これに対し、事件処理に要する実費(労働審判を申立てるときに裁判所に納める印紙など)については、いわば事件処理のための必要経費ですので、一般的には、依頼者に負担していただくことが多いと思います。
いずれにせよ、弁護士費用は事務所ごとによって異なりますので、不明な点があれば弁護士に問い合わせて確認することが大切です。
西宮原法律事務所では、不当解雇に関するご相談は無料にしています。
着手金・成功報酬など、詳しくは、弁護士費用のページをご覧ください。
「弁護士に相談する」というと敷居が高いように感じられるかもしれませんが、泣き寝入りしてしまっては、本来得られるべきものも得られません。
どうかお気軽にご相談いただければと思います。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。