執筆者 弁護士 友弘克幸(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
始業時刻が9時、終業時刻が18時、休憩時間が1時間という労働契約(雇用契約)の場合、所定労働時間は8時間となります。
では、労働者が1時間遅刻して10時に就労を開始し、19時まで残業した場合(途中で1時間休憩をとったとします。)には、1時間分の残業代(時間外労働に対する割増賃金)が発生するのでしょうか?
このような場合には、残業代(時間外労働に対する割増賃金)は発生しません。
なぜなら、割増賃金が発生する「時間外労働」とは、あくまで、実際に労働した時間(実労働時間)が1日8時間を超えた場合の労働を指すからです。
遅刻以外の理由による始業時刻の繰り下げでも同様で、たとえば、朝、台風が来るので始業時刻を1時間繰り下げ、その代わり就業時刻後に1時間の労働を命じたという場合には、現実に1日8時間を超える労働をしていないため、時間外労働に対する割増賃金は発生しません。
なお、実際の労働が深夜時間帯(22時~5時)に及んだ場合には、深夜労働に対する割増賃金が発生することは当然です。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。