執筆者 弁護士 友弘克幸
(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
高度プロフェッショナル制度(高プロ)とは
高度プロフェッショナル制度(高プロ)は、
①「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務」に従事し、
②一定額(※)以上の賃金を支払われると見込まれる労働者について、
※2023年4月現在、年収に換算して1075万円以上とされています(労基法41条の2第1項2号ロ・労基法施行規則34条の2第6項)。
③労使委員会の決議・労働者本人の同意を前提として、
④年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講じることにより、
労働基準法の労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないとする制度です(労基法41条の2)。
条文の表現に即して「特定高度専門業務・成果型労働制」と表現している文献(佐々木ほか「紛争類型別労働関係訴訟の実務・改訂版Ⅰ」)もありますが、ここでは一般的な通称である「高プロ」と呼ぶことにします。
高プロが適用されると残業代が全く発生しない
高プロが適用されると、1日8時間・週40時間を超える残業(時間外労働)・休日労働・深夜労働いずれについても割増賃金(残業代)は発生しません。
管理監督者(労基法41条2号)の場合と比較しても、より労働者に不利な制度ということになります。(管理監督者についての解説はこちら)
【高プロと管理監督者の比較~割増賃金の請求の可否】
高プロ | 管理監督者 | |
時間外労働 | ×(請求不可) | ×(請求不可) |
休日労働 | ×(請求不可) | ×(請求不可) |
深夜労働 | ×(請求不可) | ○(請求可) |
高プロは「働き方改革」の際に導入された
高プロは、2018年(平成30年)6月29日に成立した「働き方改革関連法」によって新しく創設された制度で、2019年(平成31年)4月1日から制度がスタートしています。
労働基準法の中に、「41条の2」という新しい条文がもうけられ、この制度が規定されました。
立法の過程では、労働組合や過労死で家族を失ったご遺族を中心に「長時間労働による健康被害や過労死を増加させかねない」として強い反対論が巻き起こりましたが、結果的にはそれを押し切って立法化されました。その経緯については、朝日新聞の澤路毅彦記者らによる「ドキュメント『働き方改革』」(旬報社・2019年)に詳しく記録されているので、関心のある方はお読みいただければと思います。
高プロの適用要件は非常に厳格
制度導入そのものに強い反対論があったこともあり、高プロの適用要件は非常に厳格なものとなっています。
対象業務の限定(労基法41条の2第1項1号)
高プロの対象業務は、2023年4月1日現在、以下のものに限定されています(労基法施行規則34条の2第3項)。
使用者との間の合意(書面その他厚労省令で定める方法によることが必要)に基づき職務が明確に定められていること(労基法41条の2第1項2号イ)
労働契約により使用者から支払われると見込まれる金額を年収に換算した額が厚生労働省令で定める額以上であること(労基法41条の2第1項2号ロ)
2023年4月1日現在、「1075万円以上」とされています(労基法施行規則34条の2第6項)
労使委員会の設置(労基法41条の2第1項柱書)
高プロ設置のための労使委員会については、企画業務型裁量労働制の労使委員会に関する規定が準用されます(労基法41条の2第3項)。
したがって、労使委員会の委員の半数については、事業場の過半数を組織する労働組合(それがない場合には労働者の過半数を代表する者)によって任期を定めて指名される必要があります(労基法38条の4第2項1号)。
なお、過半数代表者は管理監督者(労基法41条2号)であってはならず、かつ、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと」が必要です(労基法施行規則6条の2)。
労使委員会が委員の5分の4以上の多数によって所定の事項について決議すること(労基法41条の2第1項柱書)
労使委員会が決議すべき事項は、次の10項目です。
労使委員会の決議を労基署に届け出ること(労基法41条の2第1項柱書)
対象労働者の同意を得ること(労基法41条の2第1項柱書)
高プロが適用されている労働者はどのくらいいるのか?
厚生労働省の統計によると、令和4年3月31日時点で、高プロを導入している企業の数は21社で、高プロが適用されている労働者の人数は「665人」となっています。
対象業務ごとの内訳は以下の通りです。
①金融商品の開発の業務 0人 1事業場
②ファンドマネージャー、トレーダー、ディーラーの業務 78人 6事業場
③証券アナリストの業務 34人 6事業場
④コンサルタントの業務 550人 14事業場
⑤新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務 3人 3事業場
計 665人 22事業場(21社)
出典:厚生労働省労働基準局「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況等について」(労働政策審議会・第176回労働条件分科会・資料4)
現時点ではまだまだ導入実例は少ないですが、今後どうなってゆくのか、注視が必要でしょう。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。