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残業代をめぐる裁判例

管理監督者性が否定された例(日本レストランシステム事件)

作成者:西宮原法律事務所

いわゆるプレイングマネージャーにあたる労働者について、「管理監督者にあたる」との会社側主張が退けられた裁判例をご紹介します。

日本レストランシステム事件(東京地裁令和5年3月3日判決・労働経済判例速報2535号3頁)

【事案の概要】

被告=飲食店の経営などを目的とする株式会社。主要な業務内容は多業態型レストランチェーンの経営であり、令和2年2月現在の直営店舗数は626店舗、年間売上高は429億6200万円であった。

原告=平成20年に採用、令和2年8月に退職。

原告は、平成30年9月16日~令和2年7月7日(最終出勤日)までの割増賃金1182万0751円などの支払いを請求して本訴訟を提起した。

 

【原告の担当業務】

本件の請求対象期間中、原告は、被告の「戦略本部」に配属されていた。

「戦略本部」は、会長兼社長(以下「会長」。)直轄の組織としてビジネスモデルの構築と新業態・新メニューの開発棟を主に行う部署で、担当役員(常務)、課長職(原告)、マネージャー職1~2名からなる組織であった。

原告は、戦略本部において、黒毛和牛を用いた「C」ブランドを担当するとともに、戦略本部内に設けられた「C」ブランド全13店舗の運営を行う戦略営業部の責任者であった。

 

【争点】

原告は、管理監督者(労基法41条2号)にあたるか否か

※この記事では、管理監督者性以外の争点については省略します。

 

【裁判所の判断のポイント】

裁判所は、管理監督者性を否定し、被告に860万円あまりの割増賃金などの支払いを命じました。

裁判所の判断のポイントは次のとおりです。

・管理監督者が時間外手当等の支給の対象外とされるのは、当該労働者が経営者と一体的な立場にあり、重要な職務と責任を有しているために、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて労働することが要請されるという経営上の必要とともに、当該労働者は出退勤などの自己の勤務時間についてある程度自由裁量を働かし得るため、厳格な労働時間規制をしなくても保護に欠けるところがないためである。

・したがって、当該労働者が管理監督者に該当するというためには、その業務の態様、与えられた権限・責任、労働時間に対する裁量、待遇等を実質的にみて、上記のような労基法の趣旨が充足されるよな立場であるかが検討されるべきである

 

【業務の態様、権限、責任】

・原告が担当していた業務が被告にとって経営上非常に重要なものであったことは否定できない。もっとも、原告の担当していた経営企画業務は、あくまで会長の考えを具体化する作業というべきであって、原告にある程度の裁量や権限があったことは認められるが、最終的には会長が重要な経営事項を決定していた

・原告は、「C」の各店舗の社員の一次評価を行ったり、各店舗のアルバイトを採用する権限を有していたものの、アルバイトの解雇や社員の採用・解雇等の権限はなく、その人事権限は限定的なものであった

・さらに、本件請求期間においては、「C」の新規店舗の急拡大により人員が慢性的に不足し、原告は戦略本部における経営企画業務よりも、シフト表作成、社員・アルバイトの指導・教育、開店作業、キッチン業務、ホール業務、閉店作業等の店舗業務に追われることとなり、戦略本部の意思を実現するために経営側として従業員に指揮命令するというよりは、指揮命令される側である従業員側の労務が中心になっていた

 

【労働時間に対する裁量】

・原告は、タイムカードによって労働時間を管理されていた。

・原告は、「C」各店舗の従業員のシフト表を作成する権限を有していたが、各店舗の開店・閉店時間についての裁量はなかった

・本件請求期間においては、「C」各店舗の人員が慢性的に不足していたため、原告は各店舗に出勤して店舗業務を行わなければならず、結果的にほとんどの月で月100時間を超える時間外等労働を余儀なくされていた

・原告の年収をみると、被告における労働者の最高位である部長に次ぐ待遇を受けていた。もっとも、原告は本件請求期間において月100時間を超える時間外等労働を余儀なくされていたところ、これに見合う手当や賞与が支払われていたとは言いがたい。(非管理監督者である最上位の店長職(月給33万円)が仮に月100時間の時間外労働を行った場合には、原告の月額42万円を優に超えることとなるため、原告が非管理監督者と比べて厚遇されているとはいえない。)

 

【まとめ】

原告は、被告においてある程度重要な職責を有していたものの、本件請求期間においては、実質的に経営者と一体となって経営に参画していたとまではいえず、労働時間に関する裁量を有していたともいえないし、待遇面でも十分なものがあったとはいえない

したがって、原告が管理監督者の地位にあったということはできない

 

【本判決の意義】

管理監督者性の判断基準については、本判決は、管理監督者性の制度趣旨を踏まえて、①業務の態様、権限、責任、②労働時間に対する裁量、③待遇から実質的にすべきものとしており、これ自体は特に目新しいものではありません。

本判決で特に重視されたのは、原告が被告の経営上、非常に重要な役割を担っていたいっぽうで、実店舗での実業務にかなりの時間従事せざるを得ない状況に置かれていたという点ではないかと思われます。

判決によれば、原告は、13店舗ある「C」ブランドの店舗の現場に出て、シフト作成や社員・アルバイトの指導教育はもちろんのこと、慢性的な人手不足のため、開店・閉店作業、キッチン業務やホール業務といった業務にまで追われていたと認定されています。

このような場合、本来であれば店舗営業時間の短縮などで対応することが考えられますが、原告にはそのようなことを決定する権限も与えられていなかったと指摘されています。

判決では、以上のような働き方が、結果的に「月100時間超」という異常な長時間労働につながったと認定されていますが、このような働き方の実態を踏まえれば、裁判所が管理監督者性を否定したのは妥当な判断であろうと考えます。

 

【補足】

なお、本判決の結論との関連性は必ずしも明確ではありませんが、判決では、次のような事実も認定されています。

・原告は令和2年2月に、会長宛に「長時間労働と慢性的な人員不足により、営業部全体が疲弊しきっていること、若手がワークライフバランスを崩しモチベーションを低下させていること」を訴える内容音書面を提出した。

・原告は、令和2年6月には、D常務に対して、「C」の店舗の人員が不足し、社員の長時間労働が続いて体調を崩す者が出ていること、原告自身も激務と長時間労働により体力的に限界である旨を訴えた。

・原告は、上記の行動にもかかわらず、被告から具体的な対策を打ってもらえなかったことから、「心身に限界を感じ」て、令和2年8月をもって退職するに至った。

判決によれば、原告は、もともと優秀な働きぶりを会長に高く評価され、課長職に昇進したという経緯があったようです。上記の行動も、会社のためを思っての行動という側面があったのではないかと想像します。

本判決の事案は、「人手不足」と言われる時代に、使用者が何を優先して経営しなければならないのか、ということを考える上でも重要な教訓を含んでいるように感じられます。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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