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よくあるご質問

Q「固定残業代(制)」とは何ですか?

 

執筆者 弁護士 友弘克幸(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所

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固定残業代とは?

今回は、「固定残業代」とは何か、わかりやすく説明します。

「固定残業代(制)」とは、簡単にいえば、その名の通り、毎月、残業代として固定された額(決まった金額)を支給するという仕組み、あるいは、そのような仕組みのもとで残業代として支給される賃金そのもののことを指します。

割増賃金の定額払い」(下井孝史著「労働基準法〔第5版〕371頁」、とか「定額残業代制」(岩村正彦・中山慈夫・宮里邦雄編「実務に効く労働判例精選」第2版・39頁)などと表現されることもあります。

裁判例では、「いわゆる固定残業代の支払」(東京地裁平成26年8月26日=泉レストラン事件)と表現するもののほか、「定額残業代(割増賃金)の支払い」(東京地裁平成25年2月28日判決=イーライフ事件)、「いわゆる定額残業代の仕組み」と表現しているものもあります(東京高裁平成29年2月1日判決=日本ケミカル事件控訴審判決)。

 

労働基準法の条文には「固定残業代」という言葉は出てきませんが、厚生労働省の指針である「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成27年厚生労働省告示第406号)や、「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号)では、「固定残業代」が次のように定義されています。

 

【厚生労働省指針による「固定残業代」の定義】

名称のいかんにかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金

 

固定残業代の具体例

抽象的に説明してもわかりづらいかもしれませんので、具体例を見てみましょう。

典型的な固定残業代とは次のようなものです。

①毎月の賃金(給与)として、基本給40万円のほか、業務手当10万円が支払われる。

②業務手当10万円は、時間外労働30時間分に対する割増賃金として支払われる。

③実際の時間外労働が30時間分に満たない場合であっても、業務手当は満額支給される。

④実際の時間外労働が30時間を超えたときは、割増賃金の不足額を追加して支給する。

 

③がポイントで、現実の時間外労働が30時間に満たない場合でも(極論すればゼロ時間であっても)、業務手当は満額支給されるというわけです。

その意味では、残業時間を30時間と「みなす」側面があるともいえるということで、会社によっては「みなし残業代」とか「みなし時間外手当」などと表現しているところもあるようです。(ただし、私自身はこの呼び方は適切ではないと考えています。また、労働基準法には「みなし労働時間制」という制度がありますが、これは固定残業代制とは全く別ものですので、注意が必要です。)

 

固定残業代については求人・募集の際の明示が義務付けられている

固定残業代(制)に関しては、トラブルの原因となりがちです。

そのようなこともあって、2017年(平成29年)に職業安定法や厚生労働省の指針が改正され、2018年(平成30年)1月1日以降、事業者は、固定残業代の仕組みをとる場合には、ハローワーク等への求人申込み・自社ホームページでの募集・求人広告の掲載などを行う際、求人票や募集要項に次の事項を明記しなければならないことになりました。

ア 固定残業代を除いた基本給の額

イ 固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(固定残業時間)と、固定残業代の金額

ウ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働分については、割増賃金を追加で支払うこと

詳しくは、厚生労働省のパンフレットに詳しいので、関心のある方はご参照下さい。

 

固定残業時間の設定に上限はあるか?

ところで、固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(固定残業時間)に、「上限」はあるのか、という問題があります。たとえば、「月100時間」といった長時間を設定しても、固定残業代の定めとして有効なものと認められるのでしょうか。

この点については、これまで、裁判例によって考え方が分かれているところではあります。

もっとも、2018年に「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)以降は、36協定(さぶろくきょうてい)で許容できる1か月の時間外労働について、「原則として月45時間まで」「例外的に月45時間を超える場合でも、休日労働・時間外労働の合計は2~6か月平均で80時間以内でなければならない」などの上限が定められました(労基法36条4項)。

そうすると、少なくとも、いわゆる過労死ラインである月80時間を超えるような時間を固定残業時間として設定することは明らかに不適切と思われますので、そのような長時間を設定する固定残業代の定め自体が公序良俗に反して無効と判断されるべきであろうと思います。

また、月45時間~月80時間を設定した場合の有効性についても、「働き方改革」以前に比べれば、裁判所の判断はより使用者に対して厳しいものとなる可能性が高いと考えています。

労働時間の上限規制と「固定残業代」との関係をどう考えるかについては、これからの裁判例の集積が待たれるところですが、長時間労働による過労死・健康障害を防ごうとした労基法改正(「働き方改革」)の趣旨は、十分に尊重される必要があるでしょう。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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