執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)
【大阪弁護士会所属。「残業代請求専門サイト」を運営しています。】
残業代が出ない場合、労基署への申告が可能
残業代の不払いは労働基準法(労基法)違反です。
したがって、「残業代が出ない」場合には、労基法違反を取り締まる「労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ)」に駆け込むという方法も考えられます。(なお、一般に、労働基準監督署のことを「労基(ろうき)」または「労基署(ろうきしょ)」と略称することもあります。)
※ 全国の労基署の所在地は、こちらをご覧ください。
労働基準監督署で働いている「労働基準監督官(ろうどうきじゅんかんとくかん)」には、臨検、帳簿や書類の提出要求、使用者に対する尋問などの権限が与えられており(101条1項)、「残業代が出ない」という場合には、労働者は、労働基準監督官に対して「申告」(104条1項)をすることができます。
(なお、労基法104条2項では、使用者は、労働者が労基署に申告したことを理由に「労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない」と定められていますが、心配な場合は、労基署に「私から申告があったことは、雇い主には明かさないでほしい」と要請してください。)
労働基準監督官は何をしてくれるの?
申告を受けて労働基準監督官が事実関係を調べ、労基法違反があると判断した場合には、使用者に対する行政指導として、「是正勧告(ぜせいかんこく)」を行なうことができます。
残業代不払いに関する是正勧告の内容としては、使用者に対して、一定の期限を定めて未払い残業代を支払うよう勧告し、その結果についての報告を求める、というものが一般的です。
また、労基法37条違反については、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)も設けられています(119条1号)。
そして、このような労基法違反の犯罪については、一般的な犯罪(窃盗や傷害など)とは異なり、労働基準監督官が「警察官」の職務を行うものとされています(102条)。
したがって、使用者が「是正勧告」を無視するなど悪質なケースについては、労働基準監督官は、事件を検察官に送致して処罰を求めることもできます。(実例は少ないですが、裁判所の令状を得て使用者を逮捕するケースもあります。)
過度な期待は禁物
ただし、残念ながら、実際には「是正勧告」を無視する雇い主もいますし、そのような場合に労働基準監督官が必ず事件を刑事事件として送検してくれるとも限りません。(事件を担当する労働基準監督官個々人の熱意による差もあるようです。)
したがって、労働基準監督官が積極的に動いてくれないような場合には、弁護士に依頼して訴訟(裁判)や労働審判を起こすなど、自ら、残業代を請求するために行動を起こす必要があります。
なお、労働基準監督官に申告している間にも、過去に発生した残業代の「時効」は進行してゆくため、長期間にわたって残業代が未払いとなっているようなケースでは、できるだけ速やかに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。