執筆者 弁護士 友弘克幸(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
労働基準法では、使用者は、労働者に時間外労働・休日労働・深夜労働をさせた場合には、「割増賃金(わりましちんぎん)」の支払いをしなければならないと定めています(労働基準法37条)。
一般に「残業代」と呼ばれるものは、通常、この割増賃金のことを指しています。
では、労働基準法は、何のために、このような割増賃金という制度を設けたのでしょうか。
割増賃金制度には2つの目的がある
ある事件の判決で、最高裁判所は、以下のように述べています(最高裁第二小法廷・平成29年7月7日判決)。
”労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,①時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,②労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される”(①、②は引用にあたって付したものです)
つまり、割増賃金制度の「趣旨」(目的)は2つというわけです。
目的① 時間外労働等の抑制
1つめは「時間外労働等の抑制」です。
働き方が多様化しているといわれる現在でも、労基法に定められた労働時間は「1日8時間、週40時間」が大原則であり、それを超える時間外労働は「例外」として認められているに過ぎません。休日労働も同様です。労基法は、時間外労働や休日労働などというものは、本来、「まったくない」ほうが望ましいと考えているのです。
そして、割増賃金制度があることによって、使用者は、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働や休日労働などをさせると、通常よりも「割高」な賃金(給料)を支払わなければならないわけですから、使用者にとっては「できる限り、時間外労働などはさせないようにしよう」という動機付け(インセンティブ)となることが期待できるわけです。
目的② 労働者への補償
2つめは、「労働者への補償」です。
労働者にとっては、時間外労働(残業)や休日出勤を命じられて十分な休息がとれない状態が続くと、体力面でも、また精神面でも、疲れがたまってしまうでしょう。
労働者から見れば、いわば「使用者側の都合」でそのような重い負担を負わされるわけですから、通常の賃金(給料)よりも高い賃金を支払ってもらわなければ割に合わないといえます。
いわば、割増賃金の支払いは、「長時間労働に対する(経済的)補償」という意味合いがあるというわけです。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。