執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)
(大阪弁護士会所属。残業代請求専門サイトを運営しています。)
「2023年4月から残業代の割増率が上がる」と聞かれたことがあるかもしれません。
実は中小企業(中小事業主)についてはその通りです(大企業についてはこれまでと変わりません)。
労働基準法が改正され、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げが実施されたことによるものです。
以下、詳しく見てゆくことにしましょう。
「中小企業(中小事業主)」の定義
前提として、ここでいう中小企業とは、法文上「中小事業主」とされている企業を指すものとして使います。
労基法にいう「中小事業主」とは、具体的には、以下の条件を満たす企業をいいます。
業種 | 資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者数(企業全体) | |
小売業 | 5000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | または | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | または | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | または | 300人以下 |
月60時間超の時間外労働に対する割増率が50パーセントに
月60時間を超える時間外労働については、2023年3月以前から、労基法本則(37条1項ただし書き)では割増率が「50パーセント」とされていましたが、中小企業についてのみ、経過措置として、労基法附則138条により「当分の間」適用が猶予されていました。
それが、「働き方改革」の際の法改正によって労基法附則138条が削除され、中小企業にも大企業と同様の割増率が適用されることとなったわけです。
したがって、2023年4月1日以降は、中小企業についても60時間超の時間外労働についての割増率は、大企業と同じ「50パーセント」となりました。
詳しくは厚生労働省のパンフレットにも記載されています。
2023年4月以降の割増率まとめ
2023年4月以降の割増賃金の割増率を一覧表にまとめると、次のようになります。
日中(5時~22時) | 深夜(22時~5時) | |
法定休日 | 35% | 60% |
時間外労働(月60時間以下) | 25% | 50% |
時間外労働(月60時間超の部分) | 50% | 75% |
中小企業は業務のあり方を見直すチャンスに
残業代の割増率が上がることで、中小企業にとっては人件費の負担が増える形になるわけですが、そもそも、月60時間を超えるような時間外労働というのは、それがたとえ一時的なものであったとしても、従業員の健康確保の観点やワーク・ライフ・バランスという観点からは、決して望ましいものではありません(労働契約法3条3項参照)。
中小企業の経営者には、今回の法改正を、「残業代の負担が増える」と後ろ向きにとらえるのではなく、業務のあり方を見直す良いきっかけだと考えてほしいと思います。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。