執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
「残業承認制」とは?
会社によっては、「残業をする場合には事前に上司の承認を受ける必要がある」などと就業規則に定めているところがあります。
タイトルには「残業承認制」と書きましたが、法律上そのような制度が存在しているという意味ではなく、個々の会社において、そのような仕組みをとっている場合があるという意味です。
残業代請求の事件では、このような制度がある場合に、上司の「承認」を得ずに残業をした時間が「労働時間」にあたるかどうかが争われることがあります。
「承認」がなくても労働時間と認められる場合がある
たとえ「承認」を得ずに残業した場合であっても、その実態を見て、使用者による「黙示の指示」により業務に従事していたと認められるのであれば、「労働時間」にあたると考えられます。
「残業承認制」に関する裁判例
・大阪地方裁判所平成18年10月6日判決・労働判例930号43頁(昭和観光事件)
事前に所属長の承認を得て就労した場合の就業のみを時間外勤務として認めるとする就業規則の規定の趣旨について「不当な時間外手当の支払がされないようにするための工夫を定めたものにすぎ」ないとし、「業務命令に基づいて実際に時間外労働がされたことが認められる場合であっても事前の承認が行われていないときには時間外手当の請求権が失われる旨を意味する規定であるとは解されない」と判示した。
・東京地方裁判所平成30年3月28日判決・労経速2357号14頁(クロスインデックス事件)
午後7時以降の残業を行う場合には所定終業時刻(午後6時)までに被告代表者に残業を申請してその承認を得る必要があるとされていた事案において、被告が原告に所定労働時間内に終了させることが困難な量の業務を行わせ、原告の時間外労働が常態化していたことから、事前に被告代表者が承認していなかった時間についても、被告の「黙示の指示」により就業していたものとして、労働時間にあたると判断した。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。