執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
通勤時間は労働時間にはあたらない
通勤時間そのものは、労働時間にはあたりません。
なぜなら、労働契約上、労働者は、使用者の求める場所において労務を提供する義務を負っているところ(民法484条参照)、「通勤」という行為は、労働力を提供するための労働者側の準備行為であって、それ自体は業務ではないからです。
自宅から用務先に直行・直帰して仕事をする場合の、直行・直近に要した時間も、基本的に通勤時間と同様、労働時間ではないと考えられています(紛争類型別Ⅰ・157頁)。
既に「始業」した後の移動時間は労働時間にあたる
他方、いったん「始業した(労務の提供を開始した)」と認められれば、その後の移動時間については、特別な事情がない限りは使用者の指揮命令下にあると言えますので、「労働時間」にあたります。
裁判例では、毎朝いったん会社の事務所に立ち寄り、当日の業務に関する打ち合わせや資材の積み込みをしたのち、事務所から就業場所となる各現場に向かっていた配管工について、「現場に着いて仕事を始めてから以降のみが労働時間である」との会社側主張を退け、事務所から現場への移動時間についても「使用者の作業上の指揮監督下にあるか使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事している」時間であったとして、労働時間と認めたものがあります(東京地裁平成20年2月22日判決労働判例966号51頁・総設事件)。
この裁判例のように、始業(労務提供の開始)前の通勤時間であるのか、すでに始業した後の労働時間であるのかが争われるケースがありますが、結局は、実態から見て、使用者の指揮命令下にあったといえるかどうかが判断されることになります。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。