執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
一般健康診断の時間は労働時間にはあたらない
労働安全衛生法では、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」(労働安全衛生法66条1項)と定められています。
これを受けて、厚生労働省令(労働安全衛生規則)43条では、事業者が常時使用する労働者を雇い入れるときに健康診断を実施すべきことを定めています(雇入れ時の健康診断)。
また、同44条では、事業者は雇い入れ後も1年以内に1回の頻度で、定期的に、以下の項目について医師による健康診断を行わなければならないとされています(定期健康診断)。
これらは、職種を問わず労働者一般に対して行われるため、「一般健康診断」と呼ばれます。
「労働者一般に対して行われる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」
歯切れの悪い書き方ですが、理屈上は労働時間ではないとしつつも、厚労省としては、使用者には「労働時間」と同様に取り扱うよう推奨しているということになります。
(厚生労働省のQ&Aでも同趣旨のことが書かれています。)
特殊健康診断の場合は労働時間にあたる
一定の有害業務に従事する(したことがある)労働者に対しては、事業者は、特殊健康診断(労働安全衛生法66条2項)を実施する義務があります。
(労働安全衛衛生法66条2項)
事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
特殊健康診断については、行政通達も、次のように述べて、当然に労働時間であるとしています(前記昭和47年9月18日基発602号)。
「特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること」
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。