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Q1か月単位の変形労働時間制とは?

執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所

1か月単位の変形労働時間制とは

使用者は、事業場の過半数代表との労使協定または就業規則その他これに準じるものにより、1か月以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が週の法定労働時間(原則40時間)を超えない定めをした場合には、その定めにより、特定された週において週の法定労働時間、または特定された日において1日の法定労働時間(8時間)を超えて、労働させることができます(労働基準法32条の2)。

3種類の変形労働時間制の中でも、最も基本的な形態のものとされています。

1か月の中で業務の繁閑が激しい事業(例:月末に忙しい)や、深夜交替制労働(例:タクシー運転手)などで用いられています。

 

適用の要件

①事業場の過半数代表との労使協定  または  就業規則その他これに準ずるもの により変形労働時間制の実施を定めること

・締結した労使協定は、労働者に周知させることが必要です(労基法106条1項)。

・「就業規則またはこれに準ずるもの」とされていますが、常時10人以上の労働者を使用する使用者については就業規則の作成義務があるため(労基法89条)、就業規則によることが必要です(昭和22年9月13日基発17号)。10人未満の労働者を使用する使用者については就業規則に「準ずるもの」、つまり就業規則と同様の書面に記載することになります。なお、この書面も就業規則(労基法106条1項)と同様に、労働者に周知させることが必要です。

・なお、労使協定や就業規則については所轄の労働基準監督署長への届出が必要ですが(労基法32条の2第2項、労基法89条)、届出をしていなくてもそれらの効力が否定されるものではないと解釈されています(佐々木ほか「紛争類型別Ⅰ」214頁)。

・定めるべき内容として、次の②から④の内容があります。

②変形期間と起算日の定め

・1か月単位の変形労働時間制は、「1か月以内の一定期間」をあらかじめ定めておく必要があります。「1か月以内」なので、たとえば「4週間」とすることも差し支えありません。

・変形期間については、起算日を明示しなければなりません(労働基準法施行規則12条の2)。たとえば、「変形期間は1か月とし、1か月は毎月1日から末日までの暦日とする」などと定めることが必要です。

・当然のことながら、起算日を決めた場合には、実際の運用にあたっても起算日を守ることが必要です。裁判例では、就業規則で起算日を毎月9日と定めながら、労働時間を特定するための勤務ローテーション表では毎月1日を起算日としていた事例について、労働時間の特定に欠けるとしたものがあります(東京地裁平成27年12月11日判例時報2310号139頁。起算日の不特定以外の事情も理由として挙げたうえで、結論として変形労働時間制の適用を否定。)。

③労働時間の総枠の定め

変形労働時間制は、変形労働時間の週平均労働時間が法定労働時間の範囲内であることを要します。

たとえば、1か月を単位とする変形労働時間制をとる場合、1か月の総所定労働時間の上限は次のようになります。

31日の月 40時間×(31÷7)=177.14時間

30日の月 40時間×(30÷7)=171.42時間

29日の月 40時間×(29÷7)=165.71時間

28日の月 40時間×(28÷7)=160.00時間

これらの総枠を超えた時間就労させることをあらかじめ内容とした変形労働時間制を導入することは、変形労働時間制の趣旨を逸脱するため、無効と解されます(佐々木ほか「紛争類型別」Ⅰ・215頁)。

近似の裁判例として、就業規則に、各日の始業・終業時刻は「稼働計画表」により通知されることが定められていたところ、「稼働計画表」で設定された1か月の所定労働時間が上記の上限を上回っていたとして、1か月単位の変形労働時間制の適用が否定された裁判例(長崎地裁令和3年2月26日判決・労経速2455号24頁)があります。

④始業・終業時刻の特定

1か月単位の変形労働時間制が有効であるためには、(ア)労使協定または就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の所定労働時間を具体的に定めることを要します(昭和63年1月1日基発1号、平成9年3月25日基発195号、平成11年3月31日基発168号)。

また、(イ)就業規則において変形労働時間制をとることを定める場合には、各日の「労働時間の長さ」(⚪時間⚪分)だけではなく、「始業時刻・終業時刻」(午前⚪時、午後⚪時)も定める必要があります(労働基準法89条1号により、始業・終業時刻は就業規則の絶対的記載事項とされているため)。

なお、(ウ)業務の実態から、就業規則などであらかじめ各日の始業・終業時刻を固定的に定めることが困難であり、業務の実態から月ごとに勤務割(勤務シフト)を作成する必要がある場合には、例外的に、勤務割表(シフト表)によることも許されると解釈されています。ただしその場合でも、就業規則において「各シフトの始業・終業時刻」、「各シフトの組合せの基準・考え方」、「勤務割表(シフト表)の作成時期・作成手続・周知方法など」を定めておき、それに従って、変形期間の開始前までに具体的に特定することが必要であると解されています(類型別Ⅰ・216頁)。

裁判例では、この「労働日全日の所定労働時間の特定」という要件を満たしていないとして、1か月単位の変形労働時間制の適用が否定されたものが多くあります。

最高裁判所平成14年 2月28日判決・民集 56巻2号361頁(大星ビル管理事件)

「業務の都合により4週間ないし1か月を通じ、1週平均38時間以内の範囲内で就業させることがある」旨の規定では、労働時間の特定をしたことにはならないと判断。

仙台高裁平成13年8月29日判決・労働判例810号11頁(岩手第一事件)

勤務パターンやその組み合わせの法則等をあらかじめ定めることなく、使用者がその都度任意に勤務割表を作成して変形期間の3~5日前に従業員に周知するという方法では、労働時間の特定要件を満たしたものとは言えないと判断。

東京地裁令和元年7月24日判決・労経速2401号19頁(新栄不動産ビジネス事件)

就業規則において1か月単位の変形労働時間制をとると定められていたものの、①同就業規則には、勤務パターンごとの始業終業時刻、勤務パターンの組み合わせ、勤務割表(シフト表)の作成手続・周知手続がまったく定められていなかったこと、②シフト表自体は毎月作成されていたものの、シフト表からは休憩時間や仮眠時間が明らかでないこと を理由として、労働時間が特定されていたとはいえないと判断。

名古屋地裁令和4年10月26日・労働経済判例速報2506号3頁(日本マクドナルド事件)

全国で864店の直営店を経営している会社が、全店舗で共通の就業規則を定めており、その就業規則では、「原則的な勤務シフト」として4つのパターン(午前5時~午後2時勤務、午前9時~午後6時勤務、午後3時~午前0時勤務、午後8時~午前5時)を示していたものの、原告の勤務していた店舗では就業規則で示されたのとは異なる店舗独自の勤務シフトによって勤務割を作成していたというケースにつき、「就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、労基法32条の2の「特定された週」又は「特定された日」の要件を充足しない」と判断。

【2023年12月18日追記】控訴審(名古屋高裁令和5年6月22日判決・労経速2531号35頁)においても一審の判断が維持されています。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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