執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)
【大阪弁護士会所属。「残業代請求専門サイト」を運営しています。】
残業代には4種類ある
一般に「残業代」と言われるものは、正確には以下の4種類に分かれます。
①深夜(午後10時~午前5時)に労働させたことに対する割増賃金
②法定休日(原則として1週間ごとに1日)に労働させたことに対する割増賃金
③法定労働時間(原則として1日8時間、週40時間)を超える時間外労働に対する割増賃金
④法内残業に対する賃金
法内残業とは?
「法内残業(ほうないざんぎょう)」という言葉は、聞き慣れない方も多いと思います。
労働契約で、法律の上限(1日8時間、週40時間)よりも短い所定労働時間が定められている場合に、その所定労働時間を超えて残業しているが、1日8時間・週40時間を超えない範囲の残業を「法内残業」と呼びます。
たとえば、労働契約で所定労働時間が午前9時から午後5時まで、休憩が1時間とされているケース(この場合、所定労働時間は7時間となります)で、午前9時に出勤し、午後6時まで残業したとします。
この場合、トータルの実労働時間は8時間ですから、労基法の制限(1日8時間)の範囲内には収まっています。しかし、所定労働時間(1日7時間)を超えているという意味で「残業」ではあるため、「法内残業」と呼ぶわけです。
このような法内残業と区別するため、1日8時間超/週40時間超の残業について「法外残業(ほうがいざんぎょう)」と呼ぶことがあります。
さきほどの同じケースで、さらに午後7時まで残業したとすると、
午後5時~午後6時の残業は「法内残業」
午後6時~午後7時の残業は「法外残業」
となります。
法内残業に対する残業代については「割り増しされない」としていても違法ではない
法外残業については、労働基準法で、「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と定められています(労基法37条1項)。
一方、法内残業に対する残業代は、労基法37条によって支払いが義務づけられる「割増賃金」ではないため、「割り増し」した金額で支給することは法律上は義務づけられていません。
ただし、就業規則や雇用契約書などで、法内残業と法外残業とを区別することなく、所定労働時間を超えた残業に対しては、一律に割り増し計算して残業代を支給することを定めているケースもあります。法内残業についても法外残業と同じように割り増しして支給することは労働者にとって不利益がないため、そのような就業規則などの定めも有効とされます。
法外残業の残業代について「割増されない」と決めても無効
逆に、法外残業について、就業規則や雇用契約書などで「割増されない」と定めたとしても、効力は認められません。
法外残業について「割増賃金」を支払うことは労基法上の最低基準であるため、「割増されない」という合意は、「労基法で定める基準に達しない」労働条件を定めるものとして無効とされるからです(労基法13条)。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。