執筆者 弁護士 友弘克幸
(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
最高裁判例によると、使用者に割増賃金の不払い(労基法37条違反)があっても、第一審の裁判所が付加金の支払い命令を出す前に使用者が未払額を全額支払った場合、労働者は付加金の請求をすることができませんし(最高裁昭和35年3月11日判決)、裁判所も使用者に対して付加金の支払いを命じることはできません(最高裁昭和51年7月9日判決)。
最高裁判所は、さらに、第一審が付加金支払いを命ずる判決を出したあとであっても、控訴審の審理が終結する前(事実審の口頭弁論終結まで)に使用者が未払い割増賃金の支払いを完了した場合には、控訴審裁判所(高等裁判所)はもはや付加金の支払いを命じることができないと判断しています(最高裁平成26年3月6日判決・労働判例1119号5頁(甲野堂薬局事件))。
最高裁の理屈によると、割増賃金を支払わなかった使用者が、裁判も終盤に来て「いよいよ敗色濃厚」と悟ってから渋々割増賃金を支払った場合でも、裁判所はもはや付加金の支払いを命じることができないというのです。
これでは、労基法違反に対する「制裁」としての付加金の実効性はほとんどなく、個人的には最高裁の判断には疑問を持っていますが、実務上は以上のようになっているということです。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。