執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
労働審判とは?
労働審判(ろうどうしんぱん)とは、労働者と使用者との間に生じた労働関係に関する紛争(解雇や未払い残業代請求などの紛争)を、原則として3回以内の期日で、迅速、適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度です。
各地の「地方裁判所」で申し立てることができます。
裁判官と労働審判員2名で担当する
労働審判手続では、裁判官(労働審判官)1名と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(1名は労働組合出身、もう1名は経営者出身)とで組織する「労働審判委員会」が審理を担当します。
このような構成がとられているのは、法律の専門家である裁判官と、労働の実際の現場で経験を踏んできた民間出身の労働審判員2名が共同して紛争解決にあたることによって、適正・妥当な解決を実現しようという考え方に基づいています。
労働審判の期日は原則3回まで
労働審判を申し立てると、裁判所が「期日(きじつ)」を指定します。
期日は「⚪月⚪日午後⚪時」のような形で指定されます。
申し立てた労働者やその弁護士、申し立てられた会社やその弁護士は、指定された「期日」に出席しなければなりません。裁判所から呼び出しを受けたにもかかわらず正当な理由なく期日に出頭しなかった場合には5万円以下の過料の制裁を受けることがありますので(労働審判法31条)、注意が必要です。
期日では、労働審判官(裁判官)や労働審判員が、労使双方から事情を聞き取り、争点や証拠の整理を行なうこととされていますが(15条1項)、あわせて、紛争解決に向けた意向を聞き取り、話し合いによる解決(調停)を目指すのが通常です。
期日は特別な事情がない限りは「3回まで」とされています(労働審判法15条2項)。
「3回目の期日で調停がもう少しで成立しそうになったが、わずかに時間が足りなかった」というようなケースでは特別に「4回目」が開かれることもありますが、数は少ないです。
労働審判は非公開の手続き
労働審判の期日は、非公開で行われます(労働審判法16条)。
開かれる場所も、(よく裁判のニュースで映像が流れるような)公開の法廷ではなく、小さな会議室のような部屋になります。
大阪地裁第5民事部(労働部)のホームページに労働審判の様子を再現した写真が載っていますので、こちらを見ていただくと、イメージをお持ちいただけると思います。(なお、この写真では裁判官・両当事者がずいぶん「密」になっているように見えますが、コロナ禍以降は、裁判所側・申立人側・相手方側は別のテーブルに着席するなどして、「密」にならないように工夫されています。)
話し合いの解決を目指すのが基本だが、まとまらなければ「労働審判」
労働審判制度の特徴は、まず、合意による紛争解決(調停)を目指すという点にあります(労働審判法1条)。
ただし、話し合いによる解決ができない場合には、労働審判委員会が、事案の実情に応じた解決をするための判断(労働審判)をします(労働審判法20条2項)。
未払い残業代請求の労働審判なら、会社側に一定の金額を支払うよう命じる内容となることが通常です。
労働審判に対しては異議申し立てが可能
労働審判に対しては労働者・使用者いずれからも、「異議申立て」をすることができます(労働審判法21条1項)。ただし、異議申立てには期限(労働審判の告知を受けた日から2週間以内)がありますので注意が必要です。
異議申立てが行われた場合、労働審判は効力を失います(労働審判法21条3項)。そして、自動的に、通常の民事訴訟(裁判)に移行します(労働審判法22条)。
双方から期限までに異議の申し立てがなかった場合には、労働審判の内容が確定しますので、当事者は労働審判の内容を履行しなければなりません(労働審判法21条4項。たとえば会社に金銭の支払いを命じる内容の労働審判だった場合、会社は命じられた金額の金銭を支払わなければなりません。)。
労働審判の申し立て先は「地方裁判所」
労働審判を申し立てる先は、「地方裁判所」です。
なお、各地の地方裁判所には「本庁」のほか「支部」がありますが、ほとんどの場合は「本庁」でのみ労働審判を取り扱っています。
たとえば大阪の場合、大阪地方裁判所の本庁(大阪市)のほか、大阪地裁堺支部(堺市)と大阪地裁岸和田支部(岸和田市)がありますが、労働審判は本庁のみで取り扱っています。
2023年5月28日現在、裁判所のホームページによると、支部の中で労働審判を取り扱っているのは以下の支部のみのようです。
・東京地裁立川支部
・静岡地裁浜松支部
・長野地裁松本支部
・広島地裁福山支部
・福岡地裁小倉支部
なお、労働審判を取り扱う「支部」の数は増減する可能性がありますので、申し立てるときは裁判所に問い合わせることをおすすめします。
民事訴訟との違いは?
労働審判と、通常の民事訴訟との違いについては、別の記事に詳しく解説しましたのでそちらをご覧ください。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。