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Q残業代請求で負ける3つのパターンとは?

執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)

【大阪弁護士会所属/「残業代請求専門サイト」を運営しています。】

1.残業代請求で「負ける」とは?

残業代請求で「負ける」というと、裁判(訴訟)を起こしたが、判決で負ける(いわゆる「敗訴」)、ということを意味する場合が多いと思います。

この記事では、「労働判例」「判例タイムズ」など専門家向けの判例雑誌に公表されている裁判例などをもとに、どのような場合に「負ける」のか、「負けた」ときの対応などを解説したいと思いますが、前提として、以下の2点についてご理解いただいた上でお読みいただきたいと思います。

① 残業代請求の裁判では、「和解」による解決が多い

残業代請求のために裁判所で裁判を起こしたら、必ず「判決」になるのかというと、そんなことはありません。

むしろ、大部分のケースは、第一審(原則として大阪地方裁判所・神戸地方裁判所など「地方裁判所」が担当します)で、判決が出される前に、「和解」が成立して裁判は終結しています。

 

実は、民事裁判の手続きを定める民事訴訟法には89条1項という条文があり、「裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる。」と定められています。

このため、事件を担当する裁判官は、自分が適切だと思うタイミングで、原告(労働者)・被告(会社)に、「和解で解決してはいかがですか?」と勧めることができるのです。

 

どのタイミングで和解を勧めるのかは裁判官それぞれの個性によりますが、多くの場合は、

・双方の主張が出そろい、そろそろ関係者の証人尋問や本人尋問をしましょうか、となった段階

・関係者の証人尋問や本人尋問を終えて、あとは判決をするだけ、となった段階

という2回のタイミングで、和解を打診されるのが一般的です。

 

そして、残業代請求の裁判の多くは、この2回のタイミングのいずれかで「和解」によって解決しているのが実情です。

 

【補足:労働審判の場合】

訴訟ではなく労働審判を申し立てた場合も、かなりの割合で、話し合いによる解決(調停)が成立しています。調停が成立しない場合のみ、「労働審判」が出されることになります。

 

② 同じ事件でも、裁判官によって見方が異なる場合がありうる

裁判官といっても人間ですから、当然ながら、人生経験も、ものの見方も、一人一人少しずつ違います。

もちろん、「どの裁判官が判断しても同じ結論になる」ような事案もたくさんありますが、同じ事件なのに、裁判官によって結論が異なるということもあります。

したがって、たとえば、第一審(地方裁判所)では負けた(敗訴した)としても、不服申し立て(控訴)をして控訴審(高等裁判所)で別の裁判官に審理しなおしてもらえば、結論が変わって今度は勝つ(勝訴する)、という場合もあるわけです(もちろん、その逆もあります)。

控訴審(高等裁判所)の判断についても、不服申立て(上告・上告受理申立て)をして、最高裁判所の裁判官に判断を求めることができます。

最高裁判所で控訴審の判断が取り消されたり変更されることは非常にまれですが、まったくないわけではありません(最近の実例としては、こちら)。

したがって、微妙な事案では、ある裁判官に「負け」と判断されても、別の裁判官には「勝ち」と判断されるケースもあるわけです。

 

【補足:労働審判の場合】

裁判ではなく労働審判の申し立てをした場合は、「判決」ではなく「労働審判」が出されることになります。

この労働審判でも、「申立てを棄却する」という判断(要するに負け)をされることがありますが、この場合にも「異議申立て」をすることができ、決められた期限内に異議申立てをすれば、地方裁判所の訴訟(裁判)に移行することになっています(なお、労働審判に対する異議申立てには2週間の期限がありますので、十分に注意が必要です)。

 

2.残業代請求で負ける3つのパターン

前置きが長くなりましたが、ここから、残業代請求で「負ける」パターン(失敗例)として3つを紹介してみたいと思います。

 

①残業していたことが証明(立証)できなかった

残業代請求をするためには、「残業していたこと」を労働者側で証明(立証)しなければなりません。

適切な証拠を提出することができなかったりして、「残業していた」ことの証明に失敗した場合には、「負ける」ことになります。

なお、「残業代請求したいが証拠がない」場合の対策については別の記事で紹介していますので、詳しく知りたい方は「残業代請求したいが、証拠がない」場合はどうすればよい?をご覧ください。

 

②固定残業代により残業代が支払い済みと判断された

最近、基本給のほかに、「⚪⚪手当」といった名称の賃金が支給されているケースが非常に多くなっています。

裁判になると、会社側から、「残業代として⚪⚪手当が支払われていたのだから、残業代は支給済みだ」という主張がなされることがしばしばあります。

いわゆる、固定残業代の主張と呼ばれるものです。

たとえば、毎月の給与明細で「基本給30万円、業務手当10万円」と書かれていたので、「残業代が1円も支払われていない」と考えて残業代請求の裁判を起こしたところ、会社側から「業務手当10万円は残業30時間分に対する残業代として支払われたものだ」という主張が出てくるようなケースです。

この場合、会社の主張が認められてしまうと、残業代の計算の基礎賃金は「40万円」ではなく「30万円」となり、それを前提とした残業代の計算結果が10万円以下であれば、「業務手当によって残業代は支払い済み」ということになってしまうわけです。(残業代の計算結果が10万円を超える場合は、不足額のみ支払いが命じられます。)

 

③管理監督者にあたると判断された

会社側からの反論として多く見られるのは、「管理監督者にあたるから残業代は発生しない」というものです。

このような反論が認められた場合、深夜割増賃金を除いて、残業代(割増賃金)の請求は認められないことになります。

ただし、実際には、このような会社の反論が認められるケースは非常に少ないです。その理由は、「管理職には残業代は出ないというのは本当ですか?」に詳しく書きましたので、そちらをご覧ください。

 

以上、残業代請求の裁判で「負ける」パターンの代表例3つを解説しましたが、実際には、これらの理由以外にも、「裁量労働制が適用されて負けた」「時効が完成しているとして負けた」など、ほかの理由で負ける場合もあります。

一般論ではなく、あなた自身のケースで「負ける」可能性がどの程度あるのか、を知りたければ、やはり弁護士にご相談いただくのが一番です。

 

3.残業代請求で「負けた」ときはどうする?

もちろん、誰しも最初から負けるつもりで裁判を起こす人はいないでしょう。

残業代請求の裁判でも、「負ける」ことのないように努力を尽くすわけですが、それでも、「2」で述べたような理由で負ける場合はあります。

裁判を起こしてみたら、会社側から想定外の証拠が出てきた、といったパターンもあります。

 

では、残業代請求で「負けた」ときはどうするのか

結論からいえば、「ケースバイケース」です。

残業代請求など民事事件の判決は、必ず「判決書」という書類に基づいて言い渡しがされます。

判決書には、判決の結論だけではなく「理由」が詳しく書かれることになっています。

「負けた」場合には、まずは、判決書の内容をよく読む必要があります

理由を読んで、「なるほど、このような理由であれば負けたことも納得できる」というのであれば、そのまま負けを受け入れるというのが自然な選択というべきでしょう。

逆に、理由を読んで「このような理由で負けるのは納得できない」というのであれば、不服申し立て(控訴/上告・上告受理申立て)をして、別の裁判官の判断をあおぐことも考えるべきでしょう。

ただし、判決に対する不服申し立てには期限(控訴期限/上告・上告受理申立て期限)がありますので、その点は十分な注意が必要です。

 

4.残業代請求で負けたらどうなる?

会社側の弁護士費用を負担させられる?

ときおり、「もし残業代請求の裁判で負けたら、会社側の弁護士費用まで負担させられるのですか?」と聞かれることがあるのですが、通常、そのような心配をする必要はありません。

逆に、残業代請求で勝訴した場合でも、会社から支払ってもらえるのは残業代と遅延損害金(場合によってはそれらにプラスして付加金)のみで、労働者側の弁護士費用まで会社に負担してもらうということはできません。

弁護士費用については、裁判の結果にかかわらず、双方がそれぞれで負担するのが大原則ということです。

 

残業代請求をしたことで逆に会社から訴えられる?

結果的に負けてしまうような残業代請求の裁判を起こしたことで、逆に会社から「不当訴訟への対応で会社に損害が生じた」として損害賠償請求されるのでは・・・?と心配される方もいるかもしれませんが、こちらも、通常そのような心配をする必要はありません。

憲法32条では、基本的人権の一つとして「裁判を受ける権利」が保障されていることもあり、裁判を起こしたことそれ自体を理由として損害賠償を命じられるというのは、非常に例外的なケースに限られています。

 

最高裁判所の判例(昭和63年1月26日判決)は、訴えの提起が不法行為(民法709条)として損害賠償の対象となるのかどうかが争点となった事件の判決で、次のように述べています。

法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。」

「以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である」

裁判所の判決で表現が分かりづらいかもしれませんが、平たく言えば、「最初から負けると分かっていながら(あるいはちょっと注意すれば負けることは分かるのに)、あえて、裁判を起こした」というようなケースです。

典型的なものは「相手方に対する嫌がらせのために、負けると知りつつ裁判を起こす」といったケースでしょうが、例えばそのような、本来の裁判制度の趣旨・目的とは外れた裁判を起こした場合などは、さすがに損害賠償を命じられる可能性があるということです。

 

5.まとめ

今回は、残業代請求で「負ける」パターンの紹介、「負けた」ときの対応、「負けた」場合のリスクなどについてご説明しました。

とはいえ、以上はあくまで一般的なケースを念頭に置いての説明となります。

ひとくちに残業代請求といっても色々なケースがあります。

残業代請求について疑問や心配ごとがあれば、西宮原法律事務所の無料相談でお気軽にご相談ください。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

 

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