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よくあるご質問

Qダブルワーク(副業・兼業)と残業代の関係は?

執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所

ダブルワーク(副業・兼業)の普及

働き方が多様化し、近年では副業・兼業をする人も多くなってきました。

今回は、複数の会社に雇われて働く場合に残業代はどのようになるのか、ご紹介します。

 

雇い主が異なっても、労働時間は通算するのが原則

労基法では、原則として1日の労働時間は8時間まで、週の労働時間は40時間までと制限されています(労基法32条)。これを超える時間外労働をさせる場合には、労使協定(労基法36条)を結んで労基署に届け出するほか、割増賃金(労基法37条)を支払う必要があります。

そして、労基法38条1項は、

労働時間は労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

と定めています。

「事業場を異にする場合」には、同一の事業主(雇い主)の下で異なる事業場において稼働する場合のみならず、事業主を異にする場合も含むとするのが行政解釈です(昭和23年5月14日基発第769号、令和2年9月1日基発第3号)※。

たとえば、ある日に、A社との雇用契約に基づいて5時間働き、さらにB社との雇用契約に基づいて4時間働くと、合計9時間となって8時間を超えるため、1時間分の割増賃金(残業代)が発生するというわけです。

※ なお、学説では、労基法38条1項は、同一企業の複数事業場(たとえば同じ会社のA支店とB支店)で労働する場合にのみ適用すべきである、とする見解もあります(下井隆史「労働基準法 第5版」317頁・2019年など)。

 

どちらが割増賃金を支払う義務を負うのか?

このように、通算した労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合には時間外労働として割増賃金が発生することになりますが、問題は、割増賃金を支払う義務を負うのはどの事業主か、です。

この点について、行政通達(令和2年9月1日基発第3号)は、労働時間通算の原則的な方法として、次のように2段階に分けて処理する考え方を示しています。

①第1段階:所定労働時間の通算

まず、労働契約を締結した順に、契約上の労働時間(所定労働時間)を通算します。

例えば、先にA社との間で「月曜日の所定労働時間は5時間」と契約していた労働者について、B社が「月曜日の所定労働時間は4時間」とする契約を締結する場合、所定労働時間は通算9時間となります。

この場合、あとから契約をしたB社の所定労働時間4時間のうち、1時間は時間外労働となるため、B社は(36協定を締結したうえ、)1時間分の割増賃金を支払う必要があります。

②第2段階:所定外労働時間の通算

第1段階は契約の段階での話でしたが、実際に働かせる場面で所定労働時間を超える労働(所定外労働)が発生したときは、実際に所定外労働が行われた順に通算します。このため、先に契約したA社のほうが割増賃金を支払うべきケースもあれば、あとから契約したB社が支払うべきケースもあります。

例えば、先にA社との間で「木曜日の所定労働時間は5時間」と契約していた労働者について、B社が「木曜日の所定労働時間は2時間」とする契約を締結した場合、所定労働時間は通算7時間となりますので、A社・B社とも所定労働時間の範囲内で働かせている限り、割増賃金が発生することはありません。

しかし、このケースで、たとえばA社が木曜日に3時間の残業(所定外労働)をさせてしまったとすると、通算の労働時間が5時間+2時間+3時間=10時間となり、8時間を超えてしまいます。そうすると、A社が命じた3時間の残業のうち、2時間については法定労働時間を超える時間外労働となるため、A社は2時間分の割増賃金を支払う必要があります。

 

事業主は副業・兼業の確認をする必要がある

通常、事業主は、労働者からの申告がなければ、労働者が兼業・副業をしているかどうかを知ることができません。

また、それぞれの事業主において、実際に通算の労働時間を管理するためには、労働者と他社との労働契約で所定労働時間がどのように決められているのかや、労働者の他社での所定外労働時間の有無・状況について把握していることが前提となります。

このため、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月1日付け基発0901第4号別添)においては、「副業・兼業の確認方法」「労働者から確認する事項」として、次のように述べられています。

 

(ア) 副業・兼業の確認方法
使用者は、労働者からの申告等により、副業・兼業の有無・内容を確認する。
その方法としては、就業規則、労働契約等に副業・兼業に関する届出制を定め、既に雇い入れている労働者が新たに副業・兼業を開始する場合の届出や、新たに労働者を雇い入れる際の労働者からの副業・兼業についての届出に基づくこと等が考えられる。
使用者は、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい。

(イ) 労働者から確認する事項
副業・兼業の内容として確認する事項としては、次のものが考えられる。
・ 他の使用者の事業場の事業内容
・ 他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
・ 労働時間通算の対象となるか否かの確認

労働時間通算の対象となる場合には、併せて次の事項について確認し、
各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましい。
・ 他の使用者との労働契約の締結日、期間
他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
・ 他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
・ これらの事項について確認を行う頻度

出典:厚生労働省ホームページ「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月改訂)

 

労働者が副業・兼業を申告していなかった場合は?

では、労働者が採用される際、既に他社で就労していないかと尋ねられたのに対して「就労はしていない」と虚偽を述べ、その結果、事業主が、兼業の事実を認識しないまま、客観的には時間外労働となるような残業を指示してしまったような場合でも、後から労働者から残業代を請求されれば、事業主は割増賃金を払わなければならないのでしょうか?

佐々木宗啓ほか「類型別労働関係訴訟の実務・改訂版Ⅰ」では、①このような場合は、原則としては、信義則(民法1条2項)上、労働者からの請求は認められない、②ただし、税務処理や労働者の後日の申告により、事業主が、自分のもとでの労働時間が法定外労働時間となっていることを知った後も、漫然と時間外労働をさせていたような場合には、割増賃金を支払う義務が発生する、という考え方が示されています。

この点については紛争そのものが少なく、現状ではあまり議論されていませんが、兼業・副業が広まるにつれて、今後はこのような紛争が増えてくるかもしれません。

副業・兼業における割増賃金に関する裁判例(2025年11月13日追記)

最近の判例雑誌で、東京地裁令和7年3月27日判決(労働経済判例速報2593号3頁)が掲載されていました。労基法38条1項についての判断を示した裁判例は非常に珍しいと思いますので、ご紹介します。

この事案は、日雇い労働者を求める事業者(求人者)と求職者との間の労働契約の成立をあっせんするマッチングサービスを利用してA社との間で労働契約を結び、就労した原告(X)が、マッチングサービスを提供していた被告(Y)に対して割増賃金の支払いを求めたという事案です。

※なお、鋭い方はここで、「なぜ直接の雇用主ではない、マッチングサービスを提供しただけのYを被告にするのか?」と思われたかもしれませんが、判決によると、マッチングサービスの利用規約上、Yは事業者から賃金支払義務を併存的に債務引受けし、事業主から賃金の立替え払いの委託を受ける仕組みになっていたとのことです。

Xは、就労日の11時45分から午後1時まで(1時間15分)、A社でレジ打ちなどの業務に従事し、Yはこれに対する賃金(1340円)を(Xの口座が分からないため)法務局に供託したのですが、Xのほうは、「自分は、A社での勤務の前々日から勤務当日にかけて、B整骨院で合計43時間にわたって勤務していた。したがって、労基法38条1項により、A社での勤務(1時間15分)については『時間外労働』となり、通常の賃金(1340円)とは別に割増分(1340円×0.25=335円)も支払われるべきだ」と主張しました(なお、実際の事案では供託の有効性も争点になっていますが、判決では「供託は有効」と判断されています)。

結局、判決では、XがB整骨院で就労した事実自体を認めることができないとされましたが、判決は「なお」書き(いわゆる傍論)で、次のように述べています。

「労働者が複数の事業主の下で労働に従事し、それらの労働時間数を通算すると労基法32条所定の労働時間を超える場合には、労基法38条1項により、時間的に後に労働契約を締結した事業主はその超えた時間数について割増賃金の支払い義務を負うとされているが、当該労働者が他の事業主の下でも労働しており、かつ、同所での労働時間数と通算すると労基法32条所定の労働時間を超えることを当該事業主が知らなかったときには、同事業主の下における労働に関し、当該事業主は、労基法38条1項による割増賃金の支払義務を負わないものというべき(以下略)」

ただ、判決では、「知らなかった」ことがなぜ割増賃金の支払い義務を否定する根拠となるのか、実質的な理由付けは何も書かれていません。判決の結論を導く上では必ずしも必要のない「傍論」ではあっても、これまで裁判例も少ない労基法38条1項の適用範囲の問題について裁判所が何らかの問題意識を持ち、判決で触れることにしたのであれば、もう少ししっかりと理由付けを書くべきだったのではないか、と思います。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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