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よくあるご質問

Q裁量労働制でも残業代を請求できますか?

執筆者 弁護士 友弘克幸(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所

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「裁量労働制」と言われていても残業代を請求できる場合がある

長時間働いているにもかかわらず、「裁量労働制だから」という理由で、残業代が支給されていない、あるいは、非常に少ない金額しか支給されていないという例があります。

しかし、「裁量労働制」の適用には色々な要件があり、会社から「裁量労働制」と言われていても残業代を請求できる場合があります。

 

裁量労働制とは?

裁量労働制には、①専門業務型裁量労働制と、②企画業務型裁量労働制の2種類があります。

これらの裁量労働制は、「業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある場合」に、実際の労働時間とは関係なく、労使協定や労使委員会の決議であらかじめ定めた時間を労働時間とみなす制度です。

要するに、労使協定等で「あらかじめ1日に8時間働いたものとみなす」と決めておけば、実際に働いた時間が10時間であっても「8時間働いた」として扱える(したがって2時間分の残業代も発生しない)という制度です。

以下、実際に問題となることが多い「専門業務型裁量労働制」について解説します。

 

専門業務型裁量労働制の対象業務は限定されている

法律上、この制度を適用できる業務(対象業務)は、以下のものに限定されています(労働基準法施行規則24条の2の2第2項)。

1 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2 情報処理システムの分析又は設計の業務
3 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法第2条第28号に規定する放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
4 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6 前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務

 

6号の「厚生労働大臣の指定する業務」には、以下の14業務が指定されています(2023年5月7日現在)。

① 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)

② 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)

③ 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)

④ ゲーム用ソフトウェアの創作の業務

⑤ 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)

⑥ 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務

⑦ 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)

⑧ 公認会計士の業務

⑨ 弁護士の業務

⑩ 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務

⑪ 不動産鑑定士の業務

⑫ 弁理士の業務

⑬ 税理士の業務

⑭ 中小企業診断士の業務

どのような業務がこれに当たるかについては、厚生労働省から詳細な行政解釈が示されており、厚生労働省のホームページから確認することができます。したがって、会社から「裁量労働制だから残業代は出ない」と言われたら、まずは、これらの対象業務に本当に該当しているのかどうかを確認する必要があります。

 

会社が専門業務型裁量労働制の適用を主張したものの、裁判所から「対象業務に当たらないから適用はできない」としりぞけられた裁判例として、以下のようなものがあります。

・大阪高裁平成24年7月27日判決(エーディーディー事件)

システムエンジニア(SE)について裁量労働制を適用するとしていた会社で、実際には従業員をプログラミング業務や営業業務にも従事させていたことなどから「情報処理システムの分析又は設計の業務」(労基法施行規則24条の2の2第2項2号)には当たらないとして、専門業務型裁量労働制の適用を否定した例

・東京高裁平成26年2月27日判決(レガシィほか1社事件)

税理士資格を保有していない労働者については、税理士を補助して確定申告に関する業務などを行っていたとしても、「税理士の業務」には当たらないから、裁量労働制を適用できないとした例

 

手続違反があれば裁量労働制は無効

専門業務型裁量労働制の導入には、手続面でも厳格な手続が要求されています。

労使協定の締結(労基法38条の3第1項)

就業規則または労働協約の定め

実務上しばしば問題になる例としては、労使協定が形式的には存在しているが、その締結の手続に違法な点があるというケースです。労使協定の締結については、その締結手続について労基法施行規則に細かな定めがあるのですが、それらを遵守していないケースがあるのです。

形式的に「労使協定」が存在しているとしても、それが適法な手続きによって導入されていなければ、専門業務型裁量労働制は無効となり、実際の労働時間に基づいて計算した割増賃金(残業代)を請求できることになります。

手続面から裁量労働制の適用を否定した比較的最近の裁判例として、次のものがあります。

京都地裁平成29年4月27日判決(乙山彩色工房事件)

労使協定の締結手続きについて、「従業員の過半数の意思に基づいて労働者代表が適法に選出されたことをうかがわせる事情は何ら認められない」として裁量労働制の適用を否定。

 

(参考)裁量労働制に関する制度改正(2024年4月1日施行)の概要

なお、裁量労働制に関しては、2024年(令和6年)4月1日以降、企画型・専門業務型それぞれについて若干の制度改正が予定されています。

専門業務型裁量労働制に関する制度改正の主なポイントは次の通りです。

ア 対象業務の追加(労基法施行規則24条の2の2第2項6号関係)

対象業務に、銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」(M&Aアドバイザリー業務)が追加されます。

イ 労使協定に定めるべき事項の追加(労基法施行規則24条の2の2第3項関係)

本人同意を得ること、及び同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないこと(1号)

同意の撤回の手続き(2号)

同意とその撤回に関する記録を保存すること(4号ハ)

詳しく知りたい方は、厚生労働省のホームページ をご覧ください。

 

「裁量労働制だから残業代は出ない」と言われても鵜呑みにしない

残念ながら、裁量労働制を、「残業代を節約できる手段」程度に考え、本来の制度趣旨から離れた目的で悪用している使用者もいるのが実情です。

しかし、裁量労働制の導入には、厳格な要件・手続が定められています。

会社から、「裁量労働制だから残業代は出ない」と言われても、あきらめずに、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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