執筆者 弁護士 友弘 克幸(西宮原法律事務所)
【大阪弁護士会所属。「残業代請求専門サイト」を運営しています。】
残業代請求の解決金(和解金)に「相場」はない
未払い残業代請求の事件の多くは、示談や和解で解決されているのが実情です。
つまり、裁判所に判決を出してもらって決着することは少なく、労働者と使用者とで話し合いを行ない、一定の内容で合意することによって、紛争を解決しているのです。
そのような示談・和解の内容としてよくある内容は、会社が労働者に対して、一定額を「解決金(和解金)」のような名目で支払うというものです。
ところで、そのような解決金(和解金)の金額に、「相場」というものはあるのでしょうか?
結論からいえば、「相場などというものはない」と言うほかありません。
理由を以下に説明します。
未払い残業代の金額はどのように計算されるのか
まず前提として、未払い残業代の金額はどのように計算されるのかを理解しなければなりません。
残業代の計算式は、簡単にいえば、
①賃金単価 × ②割増率 × ③時間外労働・深夜労働・休日労働をした時間
となります。
①賃金単価の求め方は別のところで説明していますが、もともとの賃金(基本給など)が高ければ、そのぶん賃金単価も高いので、人によってまったく異なる数値になります。
②割増率については、労働基準法などで下限が定められており、多くの場合は同じ数値になります。
ただし、会社によっては労基法を上回る割増率を定めているケースもないわけではありませんので、厳密には会社によって異なるということになります。
③時間外労働・深夜労働・休日労働をした時間 も、当然ながら、人によって違います。
さらに、同じ人でも、3月の残業時間と4月の残業時間は異なるのが通常でしょう。
未払いの期間が長ければ金額は大きくなる
未払いとなっている期間が長ければ、未払い額も大きくなります。
残業代には3年の時効がありますので、通常は、さかのぼって最大で約3年くらいの未払い分を請求することになりますが、そもそも請求する時点でまだ在職期間が1年とか2年しかないというケースもあるわけです。
一部、既払いがあるかどうか
以上のように、発生する残業代そのものの金額がケースごとに異なるのですが、もう一つ、「既払いがあるかどうか」も考慮しなければなりません。
つまり、これまでに一部でも残業代として支払われていた金額があれば、当然、その分は請求額から差し引かなければなりません。
これまで残業代が1円も支払われていないのか、少しは支払われていたのか、それを踏まえて請求額を決める必要があるわけです。
交渉の中でどの程度譲歩するのか
以上のように、未払い残業代については、そもそもの請求額が人によってまったく違います。
もともと100万円しか請求できないケースもあれば、逆に1000万円以上請求すべきケースもあるわけです。要するに、事案ごとに、スタートラインが違うのです。
さらに、それに加えて、和解や示談によって解決する場合は、回収までに要する時間、立証の可能性(証拠)、会社の支払い能力などさまざまな事情を考慮して、金額面で譲歩をするかどうかを判断する必要もあります。
訴訟外の交渉でも、裁判所での和解協議でも、事情によって、ほとんど(あるいはまったく)譲歩をしないでよいと考えられる場合もあれば、逆にある程度譲歩をせざるをえないようなケースもあります。
まとめ
以上に詳しく述べてきたような理由により、未払い残業代請求に関する解決金(和解金)の金額は、個別のケースによってかなりの差があります。
このため、「解決金(和解金)の相場はこれくらい」などと申し上げることはできないのです。
「あなた自身のケース」についての具体的な見通しについては、お気軽に弁護士にご相談いただければと思います。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。