執筆者 弁護士 友弘克幸(大阪弁護士会/西宮原法律事務所)
サービス残業=賃金不払残業
残業(時間外労働)に対して、残業代が支払われないことを、皆さんは何と呼びますか?
世間では一般に、「サービス残業」という俗語が広く使われているのではないでしょうか。ネット上では、「サビ残」という略語もよく使われているようです。
しかし、労働者に残業をさせておきながら、それに見合った残業代(賃金)を支払わないことは、れっきとした違法行為であり、罰則(労基法119条1号・120条1号)もあります。そのような悪質な行為について、「サービス」という穏やかな表現を使うのは、適切ではないと私は考えています。
厚生労働省は、正式な用語としては「賃金不払残業」という言葉を用いており、必要に応じて、「賃金不払残業(いわゆるサービス残業)」という表現も用いています(たとえばこちら)。
wage theft(賃金泥棒)
ところで、アメリカなど英語圏では、経営者が労働者に対して、法律で定められた賃金(残業代や最低賃金など)を支払わないことを指す言葉として、「wage theft」という言葉があるそうです。文字通り訳せば「賃金泥棒」です。
そのような経営者は、労働者の財布に賃金(wage)として入るべきお金を、自分の財布に入れているので、やっていることは泥棒(theft)と同じだ、というわけです。「サービス残業」とは、ずいぶん印象が異なるのではないでしょうか。
「たかが言葉、されど言葉」です。同じ内容でも、どう表現するかによって、受け手に与える印象が大きく異なるのが興味深いところです。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。