執筆者 弁護士 友弘克幸
(大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
手待ち時間は労働時間にあたる
「手待ち時間(てまちじかん)」とは、使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない状態にある時間を言います。
典型例が、小売店の販売員が客の来店を待っている時間です。
現実には何もしていないとしても、客が来店すればただちに接客をしなければなりません。
このような時間は「客の来店に備えて待機すること」を労働として使用者から義務づけられているといえるため、労基法上の労働時間にあたります。
形式上休憩時間とされていても、手待ち時間(=労働時間)にあたる場合がある
ところで、労基法では、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないとされています(労基法34条1項)。
手待ち時間に関する裁判例
大阪地裁昭和56年3月24日判決・労経速1091号3頁(すし処「杉」事件)
すし店の板前見習および洗い場等裏方の仕事に従事している店員について、「休憩時間については、午後10時頃から午後12時頃までの間に客がいない時などを見計らって適宜休憩してよい」とされていた事案につき、「労基法34条所定の休憩時間とは、労働から離れることを保障されている時間をいうものであるところ、原告らと被告との間の雇用契約における右休憩時間の約定は、客が途切れた時などに適宜休憩してもよいというものにすぎず、現に客が来店した際には即時その業務に従事しなければならなかったことからすると、完全に労働から離れることを保障する旨の休憩時間について約定したものということができず、単に手待時間ともいうべき時間があることを休憩時間との名のもとに合意したにすぎない」とした。
大分地裁平成23年11月30日判決・労判1043号54頁(中央タクシー(未払賃金)事件)
東京地裁令和3年11月29日判決・労経速2476号29頁(ホテルステーショングループ事件)
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。