新大阪・淀川区で残業代請求のご相談なら西宮原法律事務所へ

logo

残業代をめぐる裁判例

変形労働時間制の適用が否定された例(日本マクドナルド事件)

作成者:西宮原法律事務所

執筆者 弁護士 友弘克幸

執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所)

日本マクドナルド事件(名古屋地裁令和4年10月26日・労働経済判例速報2506号3頁)をご紹介します。

被告(日本マクドナルド株式会社)は、(皆さんもご存じかと思いますが)ハンバーガーショップを全国で展開する会社です。

原告は、昭和59年に正社員として入社したあと、別店舗での勤務を経て、平成29年5月以降は、Q1店で勤務していました。ちなみにQ1店は24時間営業の店舗だそうです。

 

裁判の争点は数多くあるのですが、ここでは残業代請求に関して重要な部分だけ紹介します。

判決では、原告の平成29年10月1日~平成31年2月12日までの残業代(割増賃金)として、85万2882円が未払いであると認定されています。

大きな争点は、「1ヶ月単位の変形労働時間制」が適用されるかどうかでした。

ここでは制度に関する詳しい説明は省きますが、「1ヶ月単位の変形労働時間制」が適法に適用されていれば、特定の日に8時間を超えて・あるいは特定の週に40時間を超えて労働者を働かせても、発生する割増賃金の金額が大幅に減る(勤務実態によってはゼロになる)ことになります。このため、残業代請求をすると、会社側から「うちは1ヶ月単位の変形労働時間制だから(未払い残業代は存在しない、あるいはもっと少ないはずだ)」という反論を受けることがあります。

そして、この裁判でも、被告は「1ヶ月単位の変形労働時間制」が適用されると主張していました。

 

しかし、裁判所は次のように述べて、「1ヶ月単位の変形労働時間制」の適用を否定しました。

「1ヶ月単位の変形労働時間制が有効であるためには、①就業規則その他これに準ずるものにより、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、②就業規則において定める場合には労働基準法89条により各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業時刻も定める必要があり、③業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続およびその周知方法等を定めておき、各日の勤務割は、それに従って、変形期間の開始前までに具体的に特定することで足りるとされている(労働基準法32条の2第1項、労働基準局長通達昭和63年1月1日基発第1号、同年3月14日基発第150号)。

これを本件についてみると、(中略)被告は就業規則において各勤務シフトにおける各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間について『原則として』4つの勤務シフトの組合せを規定しているが、かかる定めは就業規則で定めていない勤務シフトによる労働を認める余地を残すものである。そして、現に原告が勤務していたQ1店においては店舗独自の勤務シフトを使って勤務割が作成されていることに照らすと、被告が就業規則により各日、各週の労働時間を具体的に特定したものとはいえず、同法第32条の2の『特定された週』又は『特定された日』の要件を充足するものではない。」

 

被告は全国で864店の直営店を経営しているそうで、全店舗で共通の就業規則を定めていたようです。その就業規則では、原則的な勤務シフトとして4つのパターン(午前5時~午後2時勤務、午前9時~午後6時勤務、午後3時~午前0時勤務、午後8時~午前5時)を示していましたが、原告の勤務していたQ1店では、就業規則で示されたのとは異なる店舗独自の勤務シフトによって勤務割を作成していました。

判決は、「就業規則の内容」と、現場(店舗)での実際の勤務割の決め方が一致していない点を問題視し、変形労働時間制の適用を否定したものといえます。

 

被告は、「全店舗(864店)に共通する勤務シフトを就業規則上定めることは事実上不可能である」とも主張していましたが、判決は「労働基準法32条の2は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化することを目的として変形労働時間制を認めるものであり、(中略)使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することは許容しておらず、これは使用者の事業規模によって左右されるものではない」として被告の主張を一蹴しています。

 

そもそも変形労働時間制は、「1日8時間、1週40時間」という法定労働時間の例外を認めようとするものであり、厳格な要件のもとでのみ認められるべきものです。

「就業規則」は、単なるペーパーではありません。

労働基準法によって、法定の手続きを踏まえた作成・労働者への周知・労基署への届出が義務づけられた特別な文書です。そのような「就業規則」によって勤務シフトのパターンがあらかじめ正確に示され、現場でもそれに従った正確な運用がなされていることは、法定労働時間の例外を認める上で最低限の歯止めとして必要なことと思われます。

したがって、「就業規則への明記・就業規則に従った運用」を厳格に求めた本判決の判断は、妥当なものと言ってよいでしょう。

 

飲食店やスーパーマーケット、衣料品店などのサービス業の店舗では、営業時間が長いため、シフト制がとられていることが多くあり、残業代請求の場面でも、会社側が「変形労働時間制」の主張をしてくることが多くあります。本判決は、実務上も重要な裁判例といえますのでご紹介しました。

西宮原法律事務所では、飲食店などサービス業で働いている方々の残業代請求も多数取り扱っています

無料相談のご予約は、24時間365日受付中です。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

相談料無料 LINE無料相談 お電話でのお問い合わせ 残業代請求の相談サイトHOME
お電話でのお問い合わせ LINE無料相談 残業代請求の相談サイトHOME