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残業代をめぐる裁判例

警備員の仮眠時間が労働時間にあたると判断された例(千葉地裁平成29年5月17日判決・労経速2318号3頁)

作成者:西宮原法律事務所

執筆者 弁護士 友弘克幸(西宮原法律事務所

警備員の仮眠時間について、残業代請求の対象となる「労働時間」にあたると判断された裁判例をご紹介します。

千葉地裁平成29年5月17日判決(労経速2318号3頁) イオンディライトセキュリティ事件

【事案の概要】

ショッピングセンターで警備員として就労していた原告が、拘束時間中の「仮眠時間」「休憩時間」も労働時間に当たるにもかかわらずその分の賃金(割増賃金)が支払われていないと主張して、勤務先会社に対して、割増賃金と付加金の支払いを求めた事案。

(なお、これ以外に「着替え及び朝礼に要した時間は労働時間か」なども争点になっていましたが、本稿では割愛します。)

 

【争点】

「P店・T店での夜間の仮眠時間と休憩時間」が労働時間に当たるか。

なお、P店では夜間警備は1名体制、T店では3名体制(常に1名は勤務につき、仮眠は交代でとる。)であった。

 

【裁判所の判断のポイント】

(1)労基法上の労働時間の意義

労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(不活動時間)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成12年3月9日判決=三菱重工業長崎造船所事件参照)。

そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる

したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間にあたるというべきである。

そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価される場合には、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最高裁平成14年2月28日判決=大星ビル管理事件、同19年10月19日判決=大林ファシリティーズ事件参照)。

(2)P店における仮眠時間・休憩時間は労働時間にあたるか

・P店での警備は1名体制であり、警備員は機器類の発報時には即応することが求められていた。

・仮眠時間における仮眠場所は、防災センター内の警備員控室とされ、仮眠時間中も防災センターを離れることは許されておらず、寝間着に着替えて仮眠をとることもなかった。

・実際に、原告がP店の警備業務に従事していた8ヶ月間に、仮眠時間中に緊急対応のため出動したことは少なくとも4回あった。

・休憩時間も、仮眠時間と同様に、機器類の発報等があった場合には即応することが求められていた。

→ 仮眠時間中・休憩時間中も、全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働時間に当たる。

(3)T店における仮眠時間・休憩時間は労働時間にあたるか

・T店の夜間の警備体制は3名体制であり、常に1人は勤務時間となるように勤務割が組まれていた。

・しかし、防犯警報発報時に警備員がとるべき手順を記載した手順書(マニュアル)などの記載は、仮眠時間・休憩時間に入っている警備員に対しても、現場対応を求める旨を記載したものであると理解される。

・また、被告が警備員に交付していた手帳には、休憩時間であっても火災などの突発的な緊急事案の対応が必要となることがある旨の定めがあり、実際に、発報があった場合や震度3以上の地震があった場合には仮眠者を起こして対応するという運用がとられていた。

・仮眠時間や休憩時間に防災センターを離れる場合には、発報等があった場合に即応できるように、PHSを持たされ、行き先を勤務時間中の警備員に伝えることとされていた。

・原告がT店に勤務していた約1年の間に、仮眠時間中に発報に対する対応を求められたことが少なくとも2回あり、他にも、原告の仮眠時間中ではないものの、深夜の発報が少なくとも3回あった。原告がT店に勤務していた期間の直後の時期には、冷凍機の発報対応により仮眠者が対応を求められる事態が集中して15件発生した。

→ 仮眠時間中・休憩時間中も、不活動時間も含めて被告の指揮命令下に置かれていたといえ、労働時間に当たる。

 

【本判決の意義】

判旨(1)は、「どのような時間が労基法上の労働時間に当たるのか」についての判断基準を述べたものですが、この点についてはこれまでの最高裁判例を引用して確認しているところで、特に目新しい判断はありません。

判旨(2)は、P店での「仮眠時間」「休憩時間」について労働時間に該当するものと判断しました。P店では夜間の警備員が1名しかおらず、仮眠時間であっても他に対応する人がいないわけですから、「労働時間」に該当すると判断されるのは、異論の少ないところではないかと思います。

本判決で注目すべきは、判旨(3)です。

T店では夜間3名体制で警備を行っており、勤務時間とされていない警備員は、交代して休憩・仮眠をとり、近場のコンビニに買い物に行ったり食事をすることも許されていたと認定されています。このような要素だけをみると、「仮眠時間・休憩時間は労働時間に該当しない」という判断に傾きそうです。

しかし、判決の認定によれば、マニュアルなどでは「仮眠時間」中の警備員が(勤務時間中の警備員とともに)対応することを想定した記載があったようです。また、外出は許されるものの、外出時にはPHSの所持を義務づけられていたとのことです。このような事情からすると、「完全に労働からの解放が保障されていた」とは言いがたい(したがって、仮眠時間も労働時間に該当する)のではないかと考えます。

また、判決の認定では、「T店において1名の警備員が仮眠中に発報等に対する対応を求められる頻度は1年間に平均2回~4回だった」とされています。この点を、「わずか2回~4回なら、ほぼゼロだ(実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい)」と見るのか、「2回~4回もあったのなら、それなりの頻度だ」と見るのか、によっても結論は変わってくると思われます。

というのは、大星ビル管理事件の最高裁判決(前掲)の判決文を読むと、「仮眠時間中,労働契約に基づく義務として,直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」場合には原則として労働時間にあたるが、「実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい」ときには、「実質的に役務の提供が義務づけられていない」から例外的に労働時間に該当しない、という内容と理解されるからです。

そこでこの「皆無に等しい」ということの意味が問題になるわけですが、私は、「皆無に等しい」というのは、文字通り「皆無(ゼロ)」か、せいぜい数年に1回あるかないか、といったものを言うはずだと考えています。

「1年に平均2回~4回実作業への従事が生じる」というのは、年によっては5回以上の年もあるということです(実際、原告がT店に勤務した直後の期間には短期間に15回も発生したと認定されています)。とうてい、「皆無に等しい」とは言えないでしょう。

したがって、私としては、本判決の判旨(3)は妥当な判断であると考えています。

 

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執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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