執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
着替えの時間も労働時間にあたる場合がある
仕事中は所定の制服や作業服を着用するとされている場合があります。
着替え(更衣)は「業務」そのものではありませんが、それが使用者による個別の指示、あるいは就業規則・マニュアルなどによって所定の場所において行うよう定められている場合など、使用者から明示又は黙示に義務づけられていた行為であると認められる場合には、労働時間にあたります。
したがって、「着替えの時間について賃金が支給されていない」という場合には、未払い残業代が発生している可能性があります。
着替えの時間を労働時間と認めた裁判例
最高裁判所平成12年3月9日判決・労判778号11頁(三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・会社側上告)事件)
「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法の労働時間に該当する」とした上で、「実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、また、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされていた」という事実関係のもとでは、実作業前の作業服・保護具等の装着に要した時間は労働時間にあたると判断した。
東京高等裁判所平成17年7月20日判決・労判899号13頁(ビル代行(宿直勤務)事件)
24時間勤務に就くビル警備員らは始業時間前に朝礼への出席と更衣を義務づけられていたとして、それぞれに要する10分間と5分間が労働基準法上の労働時間に当たると判断した。
※なお、朝礼に関しては「朝礼に参加した時間は労働時間にあたる?」を参照ください。
横浜地方裁判所令和2年6月25日・労判1230号36頁(アートコーポレーション事件)
朝礼の前に制服への着替えを済ませることが義務付けられていたことから、制服への着替えに要する時間と朝礼場所への移動時間を労働時間と認めた。
神戸地裁令和5年5月29日判決・労働経済判例速報2546号16頁(日本郵便事件)
被告(日本郵便)に雇用され、近畿地方の郵便局で勤務している原告ら(一部退職済みの者を含む)について、各郵便局内の更衣室において制服を更衣するよう義務づけられており、制服を着用して通勤することは許されていなかったとして、更衣(着替え)にかかる時間を労働時間と認めた。なお、判決では、実態として、原告以外の従業員の中に、一部、制服を着用して通勤している者がいることが認められるとしつつも、「これらの者は、被告の義務づけに反して制服を着用して通勤しているとみるのが相当」であるとして、そのような事情があっても「被告が制服を着用しての通勤を許容していたと認めることはできない」とされている。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。