執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
契約書・労働条件通知書がなくても残業代は請求できる
結論から言えば、雇い入れにあたって、「契約書」や「労働条件通知書」が作成されていない/それらの書類を交付されていないというケースでも、残業代の請求は可能です。
1日8時間・週40時間を超える時間外労働や、法定休日(週1日)に労働した場合の休日労働、深夜(午後10時~午前5時)に労働した場合の深夜労働については、残業代(割増賃金)が発生しますが、これらは、個別の契約ではなく、「労働基準法」で定められていることだからです。
労働契約(雇用契約とも言います)である限り、「労働基準法」は必ず適用されます。
したがって、契約書や労働条件通知書がなくても、労働基準法に基づいて、残業代(割増賃金)を請求することができます。
契約書・労働条件通知書がある場合には内容の確認を
いっぽうで、もし「契約書や労働条件通知書が手元にある」という場合には、弁護士への相談の際、それらの書類をお持ちいただくほうがよいでしょう。
というのは、契約書や労働条件通知書には、通常、「1日の所定労働時間」や「賃金の締め日・支給日」などが記載されており、これらは正確に未払い残業代や遅延損害金額を計算するためには必要なデータだからです。
また、契約書に「○○手当は○時間分の時間外労働に対する賃金として支払う」といった内容が書かれている場合がありますが、これらは固定残業代の論点との関係で重要な意味を持ちます。
契約書・労働条件通知書に、法律より有利な内容が書かれている場合もある
また、契約書や労働条件通知書に、労働基準法よりも労働者にとって有利な内容が書かれていることもあります。
典型的なのが、いわゆる法内残業(くわしくはこちら)に対する残業代です。
法内残業については、労働基準法では「割増賃金」の対象とはされていません。このため、法内残業については「割増し」のない金額を請求できると考えるのが通常です。
しかし、ときおり、契約書などで、法内残業についても「割増」賃金を支払うという規定があることがあります。
例えば、所定労働時間を1日7時間とし、7時間を超える残業については全て、通常の賃金の1.25倍の賃金を支払う、という内容が定められているケースです。
労働基準法では、1日8時間を超える残業についてのみ「1.25倍」の割増賃金を支給すれば良いことになっているのですが、このケースでは、1日7時間超~8時間以内の残業(法内残業)についても、「1.25倍」で計算するとしているので、法律よりも有利な内容ということになります。
法内残業と法外残業とで倍率を変えると計算が複雑になるためか、このような定めをしている会社もそれなりにあります。
このようなケースでは、契約書のほうが労働基準法よりも有利な条件を定めているので、契約書を確認する実益は大きいものがあります。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。