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よくあるご質問

Q仮眠時間も労働時間にあたる?

執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所

仮眠時間とは?

警備員など、宿直をともなう業務には「仮眠時間」が設定されていることがあります。

仮眠時間のうち、労働者が実際に何らかの業務に従事した時間が「労働時間」にあたることはいうまでもありません。たとえば、仮眠時間中、警備員が警報に対応して現場に直行したり、関係先に連絡を入れるなどした時間は、実際に業務に従事したわけですから、「労働時間」です。

問題は、仮眠時間中、何らの作業にも従事していなかった時間(不活動仮眠時間)です。単に仮眠していただけなのだから「労働時間」にあたるはずがない?いえいえ、決してそんなことはないのです。

 

仮眠時間を「労働時間にあたる」と判断した最高裁判決

不活動仮眠時間が労働時間にあたるか否かについて最高裁判所が初めて判断を示したのが、大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日判決・民集56巻2号361頁)です。

この事件は、ビル管理会社の技術員が残業代を請求した事件です。

技術員の「仮眠時間」のうち、実際の作業に従事していなかった時間(不活動仮眠時間)が労働時間に該当するか否かが争われました。

最高裁は、一般論として「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たる」としたうえ、「当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」と述べました。

その上で、問題となったその事件については、以下の事情を指摘した上で、仮眠時間も労働時間にあたると判断しました。

①技術員らは、仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられていた

②実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情もない

 

その後の裁判例(職種別)

最高裁の判断のあとも、「仮眠時間が労働時間にあたるか」が争われた事件は多くありますが、事案によって裁判所の判断は異なります。

以下、代表的な職種ごとに見てみましょう。

 

警備員の仮眠時間についての裁判例

おおよその傾向としては、①一人だけで勤務している事案については、不活動仮眠時間も「労働からの解放が保障されているとはいえない」として労働時間として認められやすく、②複数名で勤務して交代で仮眠をとるとされている事案では、警報が鳴ったときに仮眠をとっていない人だけで対応できないケースがどの程度あるのか、といった具体的な事情によって結論が異なっています。

同じ事件でも一審(地裁)と控訴審(高裁)とで判断が異なることもあり、専門家でも、なかなか判断が難しいケースが多いという印象です。

労働時間にあたらないとした裁判例

東京高裁平成17年7月20日判決・労働判例899号13頁(ビル代行(宿直勤務)事件)

「本件の仮眠時間については,実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に警備員として相当の対応をすべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるというべきである」として、「労働時間に当たると認めることはできない」と判断。最高裁平成18年6月13日決定(労経速 1948号12頁)により上告不受理とされ、確定。

仙台高裁平成25年2月13日判決(最高裁平成26年8月26日決定により上告棄却・上告不受理)

労働時間にあたるとした裁判例

東京高裁平成23年8月2日判決・労働判例1034号5頁(ジェイアール総研サービス事件)

千葉地裁平成29年5月17日判決(イオンディライトセキュリティ事件・くわしい解説はこちら

 

ホテルの設備管理等に従事していた労働者の仮眠時間に関する裁判例

東京地裁令和元年7月24日判決・労経速2401号19頁(新栄不動産ビジネス事件)

ホテルの設備管理業務に従事していた労働者2名が未払い残業代を請求した事件。午前0時~午前6時は、ホテル内の中央監視室等で仮眠をとることとされていたが、中央監視室にはモニターが設置され、仮眠時間中でも設備に異常が発生すれば警報音が鳴る仕組みになっていたこと、確認できる1ヶ月間だけでも仮眠時間中に「ドアの取っ手が外れた」「誘導灯球切れ」「電球切れ」など7件の作業依頼があったこと、仮眠時間中に外部業者が訪問することも多数回あったことなどから、仮眠時間中も会社の指揮命令下に置かれていたとして労働時間と認めた。

 

介護職の仮眠時間に関する裁判例

福岡地裁令和元年9月10日判決・労経速2402号12頁(社会福祉法人千草会事件)

特別養護老人ホームの介護職であった労働者が未払い残業代を請求した事件。午後5時30分~翌日午前8時30分の宿直業務中、3~4時間程度は仮眠をとっていたが、「徘徊者がいた場合にはその都度対応することを余儀なくされていた」として、仮眠時間も含めて労働時間と認めた。

 

障害者グループホームでの仮眠時間に関する裁判例

福岡地裁小倉支部令和3年8月24日判決・労経速2467号3頁(グローバル事件)

障害者が自立を目指して共同生活を送るためのグループホーム(定員10名)で就労していた労働者2名が未払い残業代を請求した事件。午後9時~翌日午前6時については原告らは施設内で仮眠をとっていたが、利用者が眠れないときやトイレの介助が必要なときは宿直担当者から利用者対応のために起こされていた(原告らが起こされることはほぼ毎日であった)。判決は、現実に利用者対応をしていなかった時間(不活動時間)についても、「労働契約上の役務の提供が義務付けられていた」として労働時間にあたると判断した。なお、原告ら2名がともに勤務していた期間については、2名のうちどちらか1名が夜間対応をする形での仕事の分担があったとして、それぞれ、2日に1日は労働からの解放が保障されていたとした。

 

執筆者情報

弁護士 友弘 克幸(ともひろ かつゆき)

1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。

大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。

以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。

2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。

2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。

2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。

また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。

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