執筆者 弁護士 友弘克幸 (大阪弁護士会所属/西宮原法律事務所)
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、労基法32条が定める1日及び1週の労働時間の上限を、ある特定の1日ないし1週において超えることがあっても、一定の期間(変形期間)において平均して週の法定労働時間を超えなければ、労基法32条違反とはならないとする制度です。
変形労働時間制の適用が認められると、例えば、ある特定の日のあらかじめ定められた労働時間が「10時間」とされ、かつ、実際の労働時間が「10時間」に及んだ場合でも、使用者はこの日の法定労働時間(8時間)を超える2時間の労働について、割増賃金を支払う義務を負わないことになります。
ただし、変形労働時間制のもとでも、休日労働や深夜労働をした場合には、割増賃金が発生します。
変形労働時間制の趣旨
変形労働時間制は、時期により業務に繁閑のある場合や、交替制労働などの場合などに、柔軟な労働時間管理を可能とするものと説明されています。
平たくいえば、忙しい時期(繁忙期)には1日8時間・週40時間を超えて労働させても、ヒマな時期(閑散期)にその分労働時間を短くすればよいことにしよう、という考え方です。
変形労働時間制には3種類ある
変形労働時間制には、現行法上、変形期間の長さにより、次の3種類があります。
①1か月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)
②1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)
③1週単位の変形労働時間制(労基法32条の5)
それぞれ導入のための手続きや要件が異なるので、詳しくは別の記事で解説することにします。
1か月単位→こちら
1年単位→こちら
変形労働時間制の適用制限
変形労働時間制は、労働時間の管理を柔軟にできるという点で使用者にとってはメリットが大きい制度ですが、労働者にとっては、生活の不規則化やそれによる健康悪化・社会的生活の障害をもたらす恐れがあると指摘されています(西谷敏「労働法 第3版」328頁)。
このため、3種類それぞれに適用のための厳格な要件が定められているほか、以下の通り、そもそも変形労働時間制の適用が制限されたり、適用にあたって使用者に配慮義務が課されている場合があります。
①18歳未満の年少者
18歳未満の年少者については、変形労働時間制で労働させることは原則として禁止されています(労基法60条1項)。ただし、例外として、満15歳に達した日以降の最初の4月1日以降は、1週間48時間・1日8時間を超えない範囲で1か月単位・1年単位の変形労働時間制を適用することが許容されています(同60条3項2号、労働基準法施行規則34条の2)。
②妊産婦
妊産婦(妊娠中及び産後1年を経過しない女性)が「請求した場合」には、変形労働時間制を採用している場合でも、週40時間・1日8時間を超えて労働させることはできません(労基法66条1項)。
③育児・介護を行う者等
(1)育児・介護を行う者、(2)職業訓練または教育を受ける者、(3)「その他特別の配慮を要する者」については、使用者は、これらの者が育児等に必要な時間を確保できるような配慮をしなければなりません(労基法施行規則12条の6)。
執筆者情報
1979年大阪生まれ、京都大学法学部卒業。
大学在学中に司法試験に合格し、司法修習生を経て、2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。
以来、不当解雇・残業代請求など、主に労働者側で多数の労働事件を担当している。
2018年4月、労働調査会より「よくわかる未払い残業代請求のキホン」を出版。
2019年10月~2021年10月、大阪労働者弁護団の事務局長を務める。
2020年4月から5月にかけて、5回にわたり、朝日新聞の「コロナQ&A」コーナーにて、コロナウイルス感染症の感染拡大にともなって生じる労働問題に関してコメントが掲載された。
また、「労働法について多くの方に知ってもらいたい」との思いから、一般の方々、労働組合・社会保険労務士・大学生等に向けて、労働法や「働き方改革」について多数の講演を行っている。